「わ！それ、どうしたんですか！」

ジェバンニが持ち帰った手荷物に、ナナが驚きの声をあげた。

「実は立ち寄った個人商店で売れ余ったバレンタインチョコを譲るといただきまして…」
「ええー、こんなに！？」

抱えた箱の中に在庫整理よろしく乱雑に重ねられたチョコレートの包みは、譲るにしては量が多かった。

「それ、本当に譲る気だったのかしら」

リドナーが指摘すると、レスター指揮官も笑みをこぼす。

「実は最初から君宛てに用意していたんじゃないか？」

会話を耳にしたニアは、ジェット機の玩具を動かしながらそっと視界に入った箱を確認する。

「うんうん、ジェバンニならそういう密かなファンがいてもおかしくないよね。うひゃー！やるう！」

ニアから冷ややかな視線を送られていることに気がつかないナナは、興奮した様子で一人盛り上がった。
目の前のチョコの箱に夢中になっている。

「そんなことないですよ」
「そんなことあるよー！こんなに沢山、普通値下げして売りますって！」
「…そうですかねぇ」
「ひとつもらってもいい…？」
「いくらでもどうぞ。いただきものですから」

そんなワクワクした目で見ないでくださいよとたじろぐジェバンニも、もっとたじろぐべき事態に気がつかないでいた。

勘のいいリドナーが姿勢よく箱まで進んだ。

「私もいくつかもらっていいかしら？」

そう持ちかけながら周囲に分からぬよう肘でジェバンニを小突く。
ハッとしたジェバンニは顔を上げ恐る恐る振り向いた。しかしニアと目が合うことはなかった。

ニアは忙しかったのだ。油性ペンを用意して指人形に落書きをする準備に。

「ニアもいる？」

まだ興奮醒めやらないナナがニアの寝転んでいる場所まで近付く。分かっているはずのニアが「なんですか？」と聞き返しても、訝しがらないところがナナの可愛いところである。
ニアの計画通り、ナナは横に座り込んで説明を始める。ふわりといい香りがその場に漂った。

「ジェバンニがチョコを沢山もらってきたの！これとか、これも美味しそうでしょ？いる？」
「生憎両手が塞がっていますので」
「あら、」
「食べないとは言っていません」

少し考えたナナは機嫌よく笑い出す。

「剥くってば！…いる？」
「いただきます」
「もっと分かりやすく言ってくれない？」

くすくす笑いながら銀紙を剥いたナナがニアの口元に板チョコを差し出す。

両手が塞がった（勿論、玩具で）ニアは、忙しいので協力してもらうだけだと言わんばかりに堂々とナナの持つチョコレートをかじった。

*

「ナナさんがまた箱覗きに来る前に片付けといた方がいいんじゃない」
「…確かに」

不穏な空気を出すボスに気がついたリドナーとジェバンニがそっと会話を交わす、SPK昼下がりの出来事であった。