想定外
ニアはうっかり悪戯心を出した自分に苛立っていた。数時間前、ニアは珍しく立ち上がり戸棚を開けていた。ナナを驚かせようとびっくり箱を仕掛けていたのだ。
SPKメンバーにお茶を配ろうとしたナナが部屋備え付けの簡易キッチンに入り戸棚を開けると、すぐさま設置したびっくり箱が作動し可愛らしい悲鳴が聞こえてくるはずだった。
おおよそニアが犯人であると分かって、こちらを睨みながら赤い顔で簡易キッチンから出るところまで想像していた。
たったそれだけのことに、想定外の邪魔が入るとは思いもしなかったのだ。
予定時刻通りSPKメンバーが揃うとナナは早速キッチンに向かった。ニアは足音を耳だけで捉え、気がつかないフリをしてパズルを続ける。
いよいよかーー
ニアの期待が高まったその時だった。なまじ仕事も気遣いもできるジェバンニが菓子折りのような箱を取り出しキッチンへと歩き始めたではないか。
「ナナさん、これ良かったらみんなで食べませんか?」
嫌な予感に名探偵は目を細め、聞こえてくる声に耳を澄ませた。
「ここに置いておきま」
「っ!きゃああっ!!!」
「わっ…」
もはや想定通り。予期せず、良きとせずなことが起こったとニアは直感した。
*
簡易キッチンの中では驚いたナナが後ろに滑って倒れそうになったところを、ジェバンニが咄嗟に支えていた。
急な出来事にも対応し全く動じないジェバンニに抱かれ至近距離で見つめられたナナは、びっくり箱の衝撃と起こっていることの衝撃が混ざり、恥ずかしさに顔をみるみる赤く染めていく。
「大丈夫ですか?」
「あっ…はい!すみませんっ!」
「(…ニアでしょうか…?)」
「(多分…)」
薄暗いキッチンの中で慌てて距離を保ちながら、二人はアイコンタクトを交わした。
*
既に苦虫を噛み潰した思いをしているニアがキッチンの方を見ると、平静を保たせようとやや緊張した顔のジェバンニと、対照に顔を真っ赤にどきまぎした様子のナナが出てきて彼はいよいよ作戦の裏目を思い知った。
その日ニアは不機嫌なまま捜査にあたり、呼びつけた割には不機嫌なニアにSPKメンバーは翻弄される1日となったのだった。
想定外