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置手紙
(あーぁ何か持ってるよ)

大きく息を吐くと画面を見つめたままの視界が煙で侵された。薄くなった靄の間から姿を表したモニター下の表示。時刻は、23時30分。

画面に映し出された追跡中の男、主犯と接触の可能性があるとかで。
設置しておいたカメラで捉えた映像をメロと確認すること十数分。挙動不審にうろついてた男が素早い動きで物を拾うような動作をした。見れば、手にはさっきまで持ってなかった黄ばんだ紙きれ。

解析して割り出すと、持ってるメモ紙には羅列された記号と数字。ざっと解読すると二つの日付が浮かび上がる。今日と、明日。その間に×。

接触する日時の指示か…主犯から届いたメッセージの可能性が高い。

今日か、明日。もしくは今日と明日の日付を掛けて割り出す全く別の日付…

と願いたいところだが今日と明日の間の×に深い意味はないと考える。対象の男は素行が悪く、度重なる逮捕歴を鑑みても複雑な暗号を解く知能はないと判断。男を切り捨てるつもりで使い走りにしている主犯側もそのことは把握しているはず。

単純に考えるなら×が指してるのは今日と明日の間、「日付が変わる時間=0時」を指すと考えるのが妥当。つまり…事が動くのは30分後。

主犯が訪れる可能性は低い。例えどれだけ秘密裏にされた場所であれ、ボスっつーもんは正体をなかなか現さない。

そもそもメモ紙を拾わせ素人に暗号を解かせるなんて不確定要素が多すぎる。あくまで失敗してもいいという訳だ。
どこに向かえばいいかは男が知っているはず。メモ紙が不慮の事態で他の者に取られたり破棄されたら日付を改めればいいだけのこと。待ち合わせ場所に男が現れなければまた同じような紙を落とせばいい。

大胆というべきか、時間を割く程慎重というべきか。

主犯でなくともこの男が接触する人物がいるなら、そいつを追えるようにしておく作業は必須。潰せる可能性は潰す、追える可能性は追う。

何の為って、念の為。俺のオトモダチが使う言葉なんだけど。

吐き気催しそう。睡眠不足だから。今日も夜通しゲームやるつもりだったんだけど。

まぁここまでは俺の見解だ。まだ何も言わない。黙ってメロの意見を聞こう。俺の辞書に自主性という文字はない。


じっと映像を見続けていたメロがパキリと音を立ててチョコを食らった。

「…行くぞ」

「あーーー!マジで…!?」

リアクションは大きく声は小さく。ナナが起きたら動きにくくなる。

「何だ?」
「寝たいんだけど」
「寝ないだろ」
「ナナが一人になる」
「…」

ナナは明日早くにニアと連絡を取るとかで、早々に寝た。部屋からはとっくに物音の気配がなくなってるから、今頃夢の中だろう。

メロは視線をちらりとナナの部屋のドアへ飛ばす。ニアに報告するんだと世間話をリストアップして、嬉しそうに「おやすみ〜!」と部屋に消えたナナの顔を思い出していることだろう。ニアと話せるのがそんなに嬉しいかってちょっと妬いたよね。俺だけ?

とまぁ…つい言い訳に口走ったが、実際これまで何度もナナを置いて外出はしてきた。勿論、必要最小限に抑えてはいたが。


…結論は出ている。

「今夜じゃなくて、今日か明日に動くって意味かもよ」
「お前はどっちだと思う?」

メロはジャケットを羽織って早速支度を始める。さすが行動の早い男。

この家の鍵は全部屋閉めてあるからOK。
盗聴器と追跡用のGPSをいくつか用意して出るべき。

「…今夜」

観念して吐き出した息に混ざる煙が、再び視界を覆った。


*


「ナナちゃん、すぐに帰ります探さないでくださいっと」
「家出か」

残した置手紙を見てメロがうるさい。

「家出みたいなもんだろ。帰れなかったらどのみち俺らの存在なんて抹消の一途を辿る」
「…間違ってはいないが」
「それにナナが夜中俺らを探しにうろついたりしたらまずいだろ」
「ナナはやりかねないからな…」

面倒そうな口ぶりなのに満足そうにメロが笑う。だろ?俺もそう思ったんだよ。

メロがうまいこと音を立てずに開けたドアから、すり抜けるように静かに外へ出る。

無音で鍵を閉めるのに成功したら、だるいだるいお仕事の始まり。

敷地を出る直前にメロに突然訊かれた。

「お前…帰れなかったらってとこまで想定してるのか?」

「まさか」

答えるとメロはすぐ前に向き直り、足を進めた。返事はないし相変わらずの仏頂面だけど、微かに笑って見えた。


帰れなくてナナを一人にするなんてあり得ない。メロも同じだろ?


あの手紙は誰も目を通さないうちに捨てる。決まってんじゃん。


置手紙
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