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裏庭にて。
「これ八百屋のおばちゃんに貰ってきた!」

マットが明るい調子で持ち帰ってきたのは、手持ち花火のセット。

「お前…やたらと物を貰ってくるな。もっと警戒しろよ…なぁナナ」

メロが怪訝な顔をしながら私の方を振り向く、も。

「やりたいのか…?」

面白そうなお土産に思った以上に目が輝いていたらしく、私の顔を見たメロは呆れた表情を浮かばせた。

「まぁ、問題なさそうだから今夜やるか…。準備しとけ」
「「やったあ!!」」

マットと私は顔を見合わせて喜ぶ。

「メロ様さすが!」
「メロ様一生ついてく!」
「自分の仕事は各自終わらせとけよ…」

張り切った私たちは夕食を早めに済ませ、その後マットは珍しく部屋を片付けに行き、私はいそいそと食器を洗った。

荷物の中から掘り出してきたバケツにお水も張って、ロウソクも準備完了!火はマット君のZIPPOにお任せ。

まだかな〜
まだかな〜

待ちきれなくてチラとメロを見れば、バチっと目が合ってしまった。

「あの、メロが落ち着いたらで!大丈夫だから!」

焦って弁解する私を見て、メロはフッと笑いをにじませて立ち上がる。

「もう片付いたから始めるか」

そう言うとメロは私の頭をポンと弾き庭に向かった。

裏庭にて。


つくづく素晴らしい安全地帯を用意してくれたものだと、ワタリにため息ものの感謝が溢れる。

周囲からは見えにくく、草花が可愛らしく咲き乱れた小さな裏庭。
そこで一足先にバケツを運んでくれていたマットと合流。

「ん」

メロがパッケージを開けて、一本目の花火を私にくれる。

「わーい♪」

ウキウキしながら早速火をつける。

シュー…と音を立て始めた先端から、パチパチと白い火花が勢いよく飛び出すと、広がるのは煙と夏の夜が混ざった匂い。

「ひゃあ〜!こんなの、久しぶり〜!!」
「よっしゃ!ナナ、気をつけろよっ」
「おうよっ」
「イエーイ!」

両手に花火を二本ずつ持ったマットが調子に乗って小走りする。

「ちょっ!危ないっ! ばか!!」
「うぇーい!」

ふとメロの方を見れば、しゃがんだ膝にまっすぐ片腕を乗せ、もう片方の手でグラスを傾けながらこちらを眺めている。

「メロもやろうよーー!」

私はマットを放って、メロの方に行く。

「ん、せっかくだから何かやるか」
「ここで座ってるなら線香花火やろう!私出す」
「さんきゅ」

私は取りづらい紙テープに抑えられた細い緑と赤を何とか取り出して、メロに手渡した。
炎に下から照らされたメロは大人びた表情で、指が触れ少しドキドキした。

火をつけてぼんやりと眺める。
細い線を引きながら次第に飛び散り始める小さな火花。

「線香花火って、大人しいように見えて結構飛び散るよね。危ないよね」
「…そうか?」
「手の方に火花が届きそうでいつもちょっとハラハラするのよ」

私は真剣に手元を見つめる。

「…お前の手、熱さに弱そうだしな」
「へっ?!」

私は手に注目されたことに動揺して、線香花火の先端の玉を落としてしまった。

「ああー!メロが動揺させるから!」
「何で動揺すんだよ…」
「もーーっ!リベンジ!

…あぢっ!!」

誤魔化すように次の線香花火を取って着火させようとした私は、慌てていて火に手を近付け過ぎた。

「馬鹿!気をつけろ…大丈夫か?」

メロがすぐに私の腕を掴んで確認する。

「大丈夫だよ…!」

突然の温もりと距離にうまく声が出なかった。顔の火照りは多分、夏のせいでもロウソクのせいでもなくて、だから夜で良かったと私はこっそりそう思う。

「何イチャついてんだよ!」

マットが騒ぎながらこちらにやってきた。

「イチャついてねーよ」
「そっそうだよ!」
「よし!誰が一番持つか線香花火競争しようぜ」
「よし乗った!勝負!」
「ガキか…」

3人であれこれ言いながら花火に火をつけては眺め、バケツに放り込むのを
繰り返した。
ノリノリの私たちと一歩下がったメロの図だけど、本当は3人とも同じく童心に返っているのを感じた。


あっという間に残り一つ、ネズミ花火だけになる。

「つけるぞ」

メロが火をつけてくれる。

ワクワク。マットと走り回るスタンバイ。

点火したネズミ花火が見事に回転しながら火花を散らす。

「わはっすげえー!」
「ひゃーーっ!」

メロが見守る中、はしゃいで動き回るマットと私。
爆笑も束の間、不規則に動き始めたネズミ花火がこちらに向かって飛んできた。

「やっ!こっち来るっ!!」

慌てて逃げようとして、情けないことに私は石につまづいてしまった。

「きゃぁっ」
「おぃっ!」

ぎゅっ。

マットがすぐに手首を掴んで支えてくれたおかげで、転ばずに持ちこたえることができた。

「ナナ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫。ありがとう」
「ナナは夢中になりすぎるからなぁー」
「転ぶかと思った…焦ったぁ…」
「あーあ、ナナのせいでクライマックス見逃したー!」
「ごめんねってばー!」

ちょっとだけ、本気で落ち込む。
せっかく楽しい雰囲気だったのに、もう、私のばか。

「花火が楽しくてもナナが怪我したら楽しくないだろ。自覚を持ってくださいお姫さま」
「…えっと」
「やんちゃどんくさナナ」
「あ!言ったわね!」
「ほれ、もう帰るよ」

そう言ってマットは私の手首を掴んだまま、明かりの元を目指して歩き出す。
強引なようで、暗闇で転ばないように支えてくれている優しい手。恥ずかしいけど、また躓かないようについていく。

3人で合流してお片付けをしたら、プチ花火大会はお開き。
その後私たちは室内に戻ってアイスを食べながら反省会をした。

「面白かった〜!またやりたいね!」

二人とも同意してくれると思ったのに。

「もうやめとけ。」
「もうやめときなさい。」

同時に止められた。

「何で!?マットまで!?」
「ナナ夢中になると危ないからだめ」
「火傷しかかったのに懲りない奴だな」

まさかのWストップに私はしょんぼりが止まらない。今度は気をつけるってば。

「ここにいても楽しめることは他にもあるだろ」

そんな私を見てメロがフォローの言葉をかけてくれた。

「楽しいこと…あんだろ、色々!」

続いてフォローしようとしたマットが、"色々"の具体例を考えたけど出てこない様子で、つい笑ってしまう。

「そうだね。二人といれば毎日楽しいもんね!」

気を取り直して言い切ると、食卓の空気がより柔らかくなった。

「よし。じゃ私、煙臭いの落としにシャワー浴びてくる!」
「はいよー」
「水分摂ってから行けよ」

メロに言われた通り少し水を含んで、私は捨て台詞を吐いてみる。

「でも花火も諦めないもん!」

「「だめ!」」

再度のWストップに舌を出して浴室へ向かう。
こんなやりとりをしつつも、3人がそれぞれ次回の花火に向けて安全対策を立てているなーなんてことを、感じながら。

*end*
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