home's_16 | ナノ
甘い恋人
(ここのお風呂って最高!)

私は充足した気持ちでバスルームから出る。

ここはLのプライベートルーム。

今日は早く作業切り上げとなり、夕暮れの時間帯から入浴してしまった。

この部屋に備え付けられたバスルームはとにかく広い。

だから満足度が違うのだ!

Lはヒューマンウォッシャーの方が好みのようで、こちらでの入浴は面倒がっているけれど…

やはり足を伸ばして湯船に浸かる快感は大きい。

ここにお風呂上がりのアイスがあれば、更に最高…

私は濡れた髪のまま冷蔵庫に直行し、冷凍室から昼に買っておいたアイスを取り出す。

一口食べて至福に酔いしれていると、

「あっ!」

どこからともなく現れたLが、即座に私のアイスを奪い取ってしまった。

「ナナのかじりかけだと思うと更に美味しいです。」

冗談を言いながら私のアイスを食べ進めてしまうL。

あああ、それは特別なお楽しみなのにー!

でもどうせ返してはくれない。

私は経験から分かっている。

くすん、楽しみにしてたのに。

気を取り直して、髪でも乾かそうかな、と思った矢先のこと。

ぺろっとアイスを食べきったLが、

「ナナ、パンケーキお願いします。」

とのたまった。



ちょ、

ちょっと待って。

私は今、プライベートタイムですし、

しかもお風呂上がりで髪も濡れてて、

しかもしかも私のお楽しみだったアイスを奪っておいて、

パンケーキ用意しろって!?

不満感が一気に募り、私は催促の声を無視して髪の毛を乾かし始めた。

「ナナ?」

と呼ぶ声が聞こえているけれど、聞こえないふり。

「アイスならまた買ってくれば食べられます。」

とLが声をかけてくる。

なるほど、アイスを横取りしたことに腹を立てているとの推理ですね。

当たりだけど外れです。

髪を乾かし終わってすぐに、Lが

「食い意地ってやつですか。」

と呟くのが聞こえた。


は い ! ?

Lがそういう人だとは分かっていたけれど、今日は間が悪い。

バツが悪いのかなんだか知らないけど、そんな言い方する?

怒りがメラメラとわいてくる。

もう絶対パンケーキの用意なんかしない。



「まぁとにかくパンケーキお願いします。」

「…まぁとにかく、じゃない。」

「?」

「もうパンケーキなんて絶対用意しない!」

さっきまでモニターを見ていたLが、驚きを含んだ顔でこちらに振り返る。

「どうしました?」

「どうもしません。」

「ではワタリに用意させます。」

そう言えば、私が動くとでも思ったのか。

「どうぞそうしてください。」

「…」

ほらほら。

さすがにこのやり取りをワタリに知らせる気にはならないようで、Lは無意識で爪を噛み始めた。

知らない、知らない!


とはいえせっかくいつもより長く二人の時間があるので、もったいなくて私は部屋に残って散らかった資料や、食器の片付けをする。

こんな状態で一緒にいる意味はあるのかとも思うけれど。

一通り片付いて、さて、お茶でも飲もうかなーと自分の分の紅茶を淹れてテーブルまで持っていく。

「ナナ…意地が悪いですね。」

「意地悪いのはLの方でしょ。」

つんつんしながら返事をする。

すこーーしだけ反省の色を滲ませたLが、

「機嫌直してください。」

と漏らし、ついこんなLも可愛いな、と思ってしまう。

でも何で私が怒ってるかは掴めてないんでしょ?

そんなことでは許しません。

「捜査に支障が出ます。」

もっともらしいことを言っているけれど、

「今は様子を見てる状態だし、捜査一時切り上げ中なんだからそんなに糖分は必要ないはず。」

ズバッと切り返す。

「こうなると無性にナナ特製のパンケーキが食べたくなります…。」

今度は直球勝負。

椅子にもたれてぐるぐる回る姿は子どもみたい。

直球には少しぐらっときたけれど。

私ね、普段はLの面倒を見てても、二人の時は甘い恋人同士でありたいの。

それを分かってくれなくちゃイヤ。

「自分で作ったらどうですかっ。」

ワタリに作らせると言ったLみたいに、今度は私がカマをかける。

の、つもりが、

少し無言で何かを考えたLは、おもむろに立ち上がりキッチンに向かってぺたぺたと歩き出した。


(おっ!甘いものの為なら自作もするのか?あ、角砂糖取るだけかな?)

さりげなく様子を伺ってみると、棚から何と小麦粉の袋を取り出している。

(作れるの!?)

小麦粉とL、何と奇妙な絵面。

どうせなら是非ご馳走になりたいもんだけど、とてもLがパンケーキを作れるとは思えない。

更に様子を見ていると、Lはボウルに向かって小麦粉の袋を傾ける…けれど、

ドサーーッ!!

一袋使い切る勢いで小麦粉を放り込むので、

「ちょっ!L!入れすぎっ」

私は思わず声に出し、キッチンに走ってしまった。

小麦粉とボウルに手をかざすようにしてLを止める。

「慣れないことして…」

「ナナが作ってくれないので仕方ありません。」

「角砂糖食べれば糖分は摂れます。」

「それでは味気ない。」

「味気ないも何も、糖分取るならそれで十分で…っ」

言葉を返しているところで、突然Lに引き寄せられ抱きしめられる。

「…L?」

ぎゅう、とすがりつくように身体を押さえられる。

苦しい。

でも

少しだけ、期待。

「ナナが笑っていないと何を口にしようと味気ないという意味です。」

こんなど直球もあるのか。

胸がドキドキする。

「無配慮でした。ナナが不機嫌だとつまらないということが分かったので機嫌直してください。お願いします。」

あのLの、素直な言葉に、私は心臓を撃ち抜かれる。

そんなことを言われたら許すも何も、もっと好きになってしまう。

「…もう。


アイス、今度は二つ用意しとくね。」

私もちょっとだけ配慮が足りなかった。Lに比べればちょっとだけ、だけどね。

許してくれるまで離さない、といった強さだったLの腕が緩まる。
安心したか?ふふ。

「それにしても小麦粉こんなに出しちゃって…。」

「全部使いましょう。」

「大量に出来上がるよ?」

「冷凍しておいてください。いつでもナナ特製パンケーキが食べられます。」

「そうだね!


…ちょっと待った。

それ解凍するの、誰?」

「ナナ…ですかね。」

…少々の間。

「懲りてないわね!」

私はぽかぽかとLを叩きながら、

それでも卵を何個使うか考え始めていた。


*end*
PREVTOPNEXT

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -