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ナナのことでこれだけ心が乱れされるとは想定外だった。ワタリが連れてきた時点で、ナナが何かしらの候補であることは予想がついていた。
恐らく私と相性がいい、そうワタリが判断した人物であること。
だがワタリも私に人間的な愛情を期待するなど無駄なことだと理解していただろう。何よりこの上なく危険な捜査において、彼女が特別な存在になることがあればリスクは跳ね上がる。彼女とどうこうなる可能性など考えるまでもなく0%だと確信していた。
しかし気がつけば、逃れられない引力に捕らえられた後だった。恋心とは、なるほど複雑だ。まるで病と同じではないか。
私はいつの間にか表情の豊かな彼女を見るのが楽しみになっていた。
度々仕掛ける悪戯を私が気をひく為にやったことだとナナは思っているようだが、真相は逆だ。
そうせずにはいられない。
彼女がどんな風に笑い、何に嘆き、どう憤って涙するのか、その全てを見たいと今は願う。
加えて夜神月の気付きに、ナナ自身の不安も募っている。
予期せずしてこの場に呼ばれ、巻き込んでしまったナナを思うと、今までに感じたことのない重苦しい痛みが心臓の辺りを襲う。
そして、夜神月だ。
あんな胡散臭い男にナナが流されることはないと願いたい。
しかし夜神月は性別を問わず広く人望を得る能力を持っている。集まる人望そのものはさして厚い訳ではないが、得る手段を持ち合わせている、ということだ。
ナナをたぶらかしたりすることのないよう注意の目を緩ませる訳にはいかない。
夜神月は早々にナナの呼び名を変え、何かある毎にナナに触れる。
緊張の所為(であると思いたい)かナナが頬を赤らめたり、戸惑うような顔をするのは猛烈に不愉快であり、腸が煮えくり返るというのはこういうことだと思うほどである。
何故他の男にそんな顔をさせられるのを私が大人しく見ていなくてはならない?
あの場で指揮を取っているのは私であり、彼女の頬に色を乗せる権利もまた私のものだ。
これ以上の事態は止めにかからなくては。
*to be continued*