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未来予想図
「ナナちゃーん!遊ぼー!」

「よしきたー!」

秋晴れに恵まれたハウスの庭は広くて空が高くて、思わずため息が出るほど気持ちがいい。

一年の中で一番過ごしやすい季節、元気に遊びまわる子ども達に誘われるようにして庭に出たナナは、仲間に入るよう促した声の元へ勢いよく駆け寄った。
深呼吸で美味しい空気を胸まで届け、誘いに応じる。

「追いかけっこ?よーし、負けないぞ〜…ダッシュ!」

「わーい!待てー!」

「つかまえてごらーん!」

少し手加減しながら駆け出すナナを、嬉々として追いかけ始める子ども達。

その横を咥えタバコで通り過ぎようとするは、野暮用帰りのマット。

「あ、お兄ちゃん!追いかけっこ今から混ざるんだけど一緒に行かない?」

休憩していた数人の子ども達が声をかける。マットは視点を定めず適当に聞き流した。

「ぁー…疲れてるからやだ。」

実はちょっとした難案件に関わってきたのだ。まともに脳内を回転させた後は肺に届く煙がいつも以上に美味い。興奮した思考回路が整理されていく感覚に今はまだ踏ん切りをつけられない。

「そっか〜。じゃ、またね!」

「おう、わりーな。」

マットは挨拶がてら動き出す小さな背中にちら、と視線を向ける。この間も誘いを断ったような気がする。子どもと遊ぶとしつこいからな…でも次は少しくらい相手をしてやってもいいか。
そんな風に思いを馳せながら、庭に走り出す後ろ姿を見つめた。

面積の少ない背中を追っていた目のピントが背景に移ると、マットは煙草以上に癒しの元になるものを発見した。散り散りに走り回るメンバーのうちの一人は、満面の笑みを浮かべるナナではないか。

「よし、やっぱり一緒に遊んでやろう」

「いいの??やったー!!」

急な方向転換に戸惑いつつも、合流志望の子ども達は喜びの声をあげた。一斉にマットの元へ集まり手を掴むと、庭へ引っ張るようにして連れ出す。

新メンバーは早速、お目当てのレディの元へ。

「あらマット!おかえりなさいっ」

息をあげたナナが輝くような笑顔で声をかける。近付いたマットは確信を得る。やっぱり最高の癒しの元は彼女だと。

「今俺鬼だぞ」

「えっ!?参加してるの!?」

にこやかに持ち上げられた赤みの走る頬が突然下がり、口を開けた間抜けな真顔になる。そんな矛盾した表現が許されるのならば。

本気の表情に変わったナナはさっきまでマットに向けていた爽やかでキュートな雰囲気を翻し全速力で逃げていく。

「ターゲット確認!」

子どもウケしそうな言葉を発しながら、マットは速度を上げナナを追いかけた。

「きゃーーーっ!みんなも逃げてー!!お兄さんが来るよーー!」

半分本気混じりなナナの叫び声に、遊びのメーンキャスト達がキャーキャーと騒がしくなり、静かなハウスの庭に黄色い歓声の華が咲いた。

*

全員の息が上がるくらいひとしきり走り回った後、疲れたところを狙ってマットがナナの肩に軽く触れた。

「はぁはぁ…捕獲…!」
「はぁはぁ…ちょっとこわかった!」

二人が息をあげながらその場にへたりこむと、子ども達がわらわらと集まって上からその姿を覗き込んだ。

「大人二人で本気かよ!」「子どもみたーい!」

口々に突っ込まれ苦笑いを浮かべた二人は、相手の崩れ具合を確認するように互いを見やる。

全力疾走を讃える粒揃いのオーディエンス、そのうちの一人がこんなことを言い出した。

「お兄ちゃんとナナちゃんはお似合いだから結婚すればいいのに!」


「「えっ」」

思わず視線をぶつけるマットとナナ。

結婚とはまた早急な。

しかしタイミングとも言いますし。

「どうしてしないの?」「いいねいいね!」「賛成!結婚式やるなら私も出る!」

にわかに盛り上がり出した幼い夢。
その収拾がつかなくなる予感に、

「ほら!そんなこと言ってないでそろそろおやつよ。手を洗ってらっしゃい!」

足についた草を払いながらナナが立ち上がった。気にしないポーズを取りながら室内に促す。
おやつと聞き一斉に駆けていく、小さな演出家達。
今日の庭遊びはさながら舞台のようだった。

「まったく…おませさんで笑っちゃうね」

ナナが頬を緩ませ手を伸ばす。
伸ばされた手を掴んだマットが「だな」とだけ相槌を打って立ち上がった。

爽やかな風に頬をくすぐられながら、マットとナナも息を整えてハウスへと足を進めた。

何となく互いに言葉の出ない数十秒。
先ほどの言葉が蘇る。

未来予想図

「ありえない!」と笑おうか、「楽しいかも」と想像しようか。

(どうかなぁ…)

それぞれが少し照れながら玄関に向かう、足音が妙に響くコンクリートの上。

長くなりはじめた二人の影が、まるで手を繋いでいるように重なって後方に伸びていた。
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