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fireworks*
このお話は浴衣の色も変換できますのでお好きな色をどうぞ♪
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「あえて希望を言うなら赤の浴衣がいいです」
「えっ!?」

私は跳ね上がった。
心も、身体の方も。

日本に来て、Lとお付き合いを始めて、初めての夏。

近くの河川敷で花火大会が行われると聞いて、内心行ってみたくてうずうずしていたのだ。

でも忙しい捜査本部の皆さんを誘う訳にもいかず、自分自身の身を守る為安易に人混みに行くことも推奨されずで、ひっそりと我慢していた。

普段よりそわそわしていたらしい私に、いち早く気づいたLが「今夜の花火、一緒に見ますか?」と聞いてくれたのは、浴衣の希望カラーを伝えられる一言前。

「な、なんで分かったの?!」
「なんでも何も…それだけでかでかと花火が見たいと顔に書かれていたら誰でも気がつきますよ」
「う…」

図星。
そんなにでかでかと書いてありました?恥ずかしくて思わず両手で顔を隠す。

…恥ずかしいけれど、当ててくれたことが嬉しい。
当てて、気付かないフリをしないでいてくれたことが嬉しい。

「残念ながらこのビルの屋上で、ということになりますが構いませんか?」
「構いません!」

叶わないかもって思ってたんだもん、充分だよ。ありがとうL。

「では赤の浴衣は私からのリクエストです。好きなものを選んできてください」
「浴衣が着られるなんて…
嬉しい!ありがとう!楽しみ〜〜!」

はしゃぐ私を見て、Lは面白いものを見つけた時のような顔をする。こちらをまじまじと見つめほんの少し目が生き生きする(ように感じる)だけなんだけど、この違いは大いなる違いなのだ。

今はお昼の休憩中、みんなが戻ってくるまでにこの浮かれた気持ちをどうにかせねば。

アイコンタクトで買い物と気持ちのクールダウンを促すLに、何度も頭を上下させ(了解っ!)の合図をすると、私は急ぎ買い物に出た。


*


無事に赤の浴衣を選んだ。自分の好みとリクエストが重なったのは幸い。今夜を楽しみに、こっそり浴衣セットを自室に置きに行った。

これを着てLと花火鑑賞。考えただけでもわくわくする…!

逸る気持ちを抑えて捜査本部に戻ると、休憩を終わらせた捜査員の面々も全員揃っていた。

「そういえば今日は花火大会の日ですよね〜!」

松田さんが花火の話をはじめ、ドキッとする。

「ああ、そういえば。それどころじゃなかったから忘れていたが…」

夜神局長が言うと、相沢さんも「今年は家族で花火を見ずに過ごすことになりそうだ」と苦笑いした。

なんだか…嫌な予感。

予感は早々に的中し、松田さんが「じゃあ今日は早めに切り上げて、屋上で花火鑑賞でもしましょうよ!」と言い出した。

いやー!その案はダメ!

みんなが「それもいいかも」と言い出しそうになった瞬間、Lが即座に言い放った。

「駄目です」

ピシッと張り詰める空気。

「今日は早めに切り上げて構いませんので、皆さんは直接花火大会を楽しんできてください。相沢さんも、帰宅されてはどうでしょう」

Lがにこりと笑みを浮かべながら発言したので、みんな(ムチと見せかけたアメか〜)と少しホッとした様子になった。
相沢さんは久しぶりの帰宅に、嬉しいようなそんなことをしている場合かと戸惑うような複雑な表情をしている。

切り替えの早い松田さんが早速誘いの声を。

「じゃナナちゃんも一緒に行かない?」
「私は竜崎の手伝いがあるので…」

Lと目が合う。

特別目配せも何もしないけれど、二人とも、二人だけの約束を守っていると思うと、胸は熱くなるばかり。

「男だけじゃむさ苦しいから、ナナちゃんにも来て欲しかったな〜!今日だけ!駄目ですか?りゅうざき〜」
「ナナさんと過ごしたければここに残って仕事してもらってもいいですよよ」

食いさがる様子にLが付け加えると、松田さんは「遠慮しておきます…」と首をすくめて自分の作業に戻った。


*


夕方と夜の間。いつもより早く仕事を切り上げた捜査員の面々は買い出しをしたり待ち合わせ場所を決めたりして本部から姿を消した。
男性陣がまとまって出て行く姿は確かにちょっとむさ苦しくて笑えたけれど、内心を匂わせないようにこやかに送り出して本部のドアを閉める。

やっと二人きりになれた!
浮かれる気持ちで振り向いたら身体が急に締め付けられた。

「きゃぁ!」

びっくりして思わず声をあげてしまった。
Lがいつの間にか真後ろに立っていて、振り向きざまに抱きしめられていた。

「驚きすぎです…捜査員が戻ったら困ります」
「そ…そんなこと言っても驚かす竜崎が悪いんじゃないですか…」
「竜崎」

Lが指をかじる。がり、と音が聞こえてそんなに強くかじることないのに、と密かに思う。

「捜査員が戻ったら困るとか言うから念の為言っただけですよ」

二人きりなのに私が竜崎と呼んだことに拗ねているので慌ててフォローする。

途端、誰かがドアを開ける音がして私は慌ててLから離れた。ほらやっぱり、キケンキケン!

しかしドアが開いて入ってきたのは、ワタリ。落ち着く姿に自然と顔がほころぶ。

「雰囲気が出るでしょう。どうぞ」

ワタリが差し出した袋の中を見れば…

「「チョコバナナ!」」

私たちは各々喜びの声をあげる。
なんて素晴らしい差し入れ!

「私は部屋で休みたいのでお気遣いなく」

ワタリも誘った方がいいか悩む前に、既に答えが用意されていた。頭が上がらないや。

「では遠慮なくいきましょう」

そんなワタリの気遣いに当たり前に甘えたLが私の腕を引っ張り移動を促す。

「ぁっ…ワタリ…色々とありがとうっ!」

引きずられ進みながら後ろ向きに挨拶をすると、ワタリもLのように機嫌のよい笑顔を浮かばせていた。


*


あえて待ち合わせがしたくて、屋上集合にした。

赤の浴衣、店員さんとの練習を思い出しなんとか着替えられた。こんな感じでいいのかな?情緒溢れる自分の後ろ姿を鏡越しに見ると一層気持ちが盛り上がった。

窓やミラーに反射する自分についつい目を走らせながら、屋上の入り口に到着した。

コンコン…

ノックすれば、Lが外側にかかっている鍵を開けてくれる。むわっとした熱気と共に抑揚のない声が隙間から届く。

「待ちくたびれま…」

いつもの嫌味を言おうとしたLが言いかけて止まる。

ドアを抑えたまま、Lの深く黒い目がじっとこちらを見る。

超 真顔。

「ど…どうかな??」

緊張しながら聞くと、

「やはりナナには赤が合うと思いました」

ホッ。良かった〜。

「が、」

が?!

「想像以上に似合っているので負けた気分です」
「何それ」
「私の色の見立ては正しかったのですが」
「モデルの力量を計り違えてました?ふふふ、勝った!」
「チョコバナナが溶けるので早くしてください」

会話をぶつ切りにした挙句、どこを見ているのか分からない方向を見ながらLはスタスタ進んで行ってしまう。

「ちょっ!もっと褒めてくれたらいいのにー!」

素直に言ってくれない猫背の君を追いかけて進む。Lの佇むフェンス側に近付いた時、太く響くような花火の音が聞こえた。

「始まりましたね」
「うん」


*


高いビルの屋上、Lと二人きりで見る花火。
夜風に当たりながら、今私たちは堂々と恋人として寄り添っている。誰も知らない。誰にも邪魔できない二人だけの時間。

「綺麗です」とLが呟く。

「うん!花火って本当に綺麗だね〜!」私も返す。

夢中になって彩を追う。
こんな幸せな時間が訪れるとは思わなかった。

「あぁ…、花火も綺麗ですね」
「?」

Lがそっと私の手に触れて、私はそれを握り返した。

普通、こんなに暑いのに手を繋ぐ?

答えはイエス、大好きな人とならどんな熱も大歓迎。


(花火"も"綺麗…)

花火に浮かれていた私はワンテンポ遅れてLの発言の意味に気が付く。嬉しくて、恥ずかしくて、主張の激しい心臓とは反対に固まったように動かない足。全身が、熱を帯びたように感じる。

そっと盗み見ると隣の恋人はマイペースにチョコバナナを頬張っている。

今の顔がLに見えませんように。
この熱が伝わりませんように…!

私は焦りながらそれでも手を離すこともできなくて、Lの真似をしてチョコバナナを一口かじった。


初めてLと見る花火。


汗のにじむ背中、赤くなった頬、繋いだ手。
どこの熱もしばらくひきそうにない、夏の夜の始まり。

Fireworks*
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