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2/14 Dating
東京の街は、今日もどこから来たのか分からない人々が元からここにいたみたいな顔をして連なり、賑わっている。

同じくどこから来たのか分からないであろう私たちも、その中に馴染んで足を進める午後2時。

捜査員は全員本部にいる。ワタリがそれをさりげなくチェックしていて、誰か一人でも外に出ようものなら連絡をくれる手筈になっている。

だから珍しく、Lと二人で街を歩けているという訳だ。監視カメラの角度に変更がないか、そこを通る人物の会話傾向なんかを見たかったらしい。

「収穫はありました?」
「ええまあ」
「珍しいね。外の風でも浴びたくなったの?」
「……」

Lが黙るので、私は注意されるかと身構える。久しぶりに二人きりになれたから普段通りに話したかった訳だけど、あくまで部下の体裁は保てと言われたりして。

「……まあそんなところです」

でもLはそれ以上注意をしなかった。嬉しくなって、マスクの下でつい頬が緩む。

「世間はバレンタインだよ、こんな日に年頃の男女が歩いてたらカップルに見えるかな?」

人々は、この場所を彩るエッセンスになっているけれど、彼らの真相なんて分からない。
私たちの真相もそう。だから傍目からは、そんな風に見えることを期待したりして。

「見えたらどうするんですか」
「そりゃあ。……嬉しいよ」

今Lよりすこーしだけ前を歩いているから、彼が私の顔を覗けない隙を見計らってそう放つ。
好きとか嫌いとか、そんな話一度もしたことがないけれど。
付き合うとか愛するとか、そんな次元にはいない私たちだけど。

「……前から思ってましたが趣味悪いですね」
「えっ!エルに言われたくない!」

悪趣味とは。
私がこの場で恋人に見えるのを喜ぶこと?
それともLを好ましく思うことそのもの?

振り向くと、Lの視線は私をじいっと捉えて、それからすぐ斜めに逸らされる。

「世間に誤解されるのは癪なので、大量のチョコレートを購入し、買い出しを任された人間を装いましょう」

Lの目線が、少し先にある特設ショップへ移る。

「なっ!冷た!」

私のちょっとした甘えはあっさりと受け流される訳だ。

と、思ったのだけれど。

「ナナが欲しいものも選んでいいです」

「え?」

空耳かと思って聞き返すと、Lからスペシャルスイートな一言が。

「……さっきの発言あなたにしては可愛かったので」

私は思わずきょとんとして、それから失礼ねえ!とLの背中を叩いて店内へ入る。

ハッピーなこの空間は、多くの女性客でごった返している。男性といえば、ベビーカーの赤ちゃんと、老夫婦のご主人くらい。

この空間で今から私たち、会社への差し入れチョコを装って、沢山の商品をカゴに入れていく。

(何か欲しいものあるかな。夜に2人で溶かせるものがいいな)

そんな事を考え始めると、買い物が途端に楽しい。

都会の人混みに混ざった私たち。

今この瞬間身体がほこほこと温かいのは、多分店内の暖房のせいではない。


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