迷惑な女
「ご迷惑をおかけしないよう、頑張ります」ぎこちない顔持ちで挨拶の次にそう言った。彼女は今日も普段通りに仕事を全うする。
頼んでもいないのに紅茶を勝手に届け、
催促の声を必要とせずシュガーポットを置いていく。
早足で戻る後ろ姿を見るに何も言わずとも次はスイーツを山盛り乗せた皿を運んでくるに違いない。左側は簡単に取れる串もの、右側は一口で食べられるシュークリーム。
…迷惑な女。
落として、こぼしてしまえばいい。
卑屈な胸の音に蓋をし無言で覗き込めば、下唇だけを動かし下手くそな笑顔をつくる。その上で私に恐縮し焦りを含んで揺れる瞳。
ーーThe eyes have one language everywhere.
日本語にも同じような解釈があった。
"目は口ほどに物を言う"
向き直ったモニターに反射して写った顔を見て「ともすれば自分の目も同じことに?」と不愉快になった。
彼女の動向にいちいち気を払っている暇はない。
放っておけばいい。彼女は自分なりに考えた最善を尽くしているだけ、全てはそのことに他ならないのだ。
今度は捜査員に茶菓子を配り始めている。
一言二言余分に会話を交わすのが疎ましい。どうせあちらでは緊張した焦りに瞳を揺らすこともないのだろう。
こうも余計なことを考えていてはキラの動きを見逃しかねない。
次に彼女がこちらへ来たなら「あなたの所為で犠牲者が増えるかもしれない」と吹っかけてやれ、少しは大人しくなるだろう。
…いや。
何に大人しくなる?
この場合大人しくないのは。
迷惑な女