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Rival
穏やかな日差しの中に、うっすらとオレンジが混ざり出した昼下がりと夕暮れ時のちょうど中間。
ニアの部屋に洗濯物と、リビングに放置された玩具のいくつかを届けに来た。

「…ありがとうございます」

形ばかりのお礼を言ってこちらを振り向かないニアに、

「次放置したら捨てちゃうからねっ」

と私は厳しく釘をさす。

子ども達の相手をして、ハウスの用事をして。一息つきにこちらのリビングへ来るというのに、ニアが散らかした後だと気分は最悪なのだ。

ニアが返事を怠るのは今に始まったことではないけれど、さすがに玩具は捨てないよう一言くらい返してくるかと予想された。それなのに何もリアクションしないから、結局こちらから声をかけてしまった。

「えっ!捨てちゃっていいの?」

ニアは完成したパズルを裏返して、ばらばらと崩しながら口を開く。艶めいたピースの表面が陽に反射して、黄色ともオレンジとも表現しがたい光がちらちらと揺れ落ちた。

「構いません。またナナさんに用意していただくので。」

ふてぶてしい態度。それに、私の仕事が増えてるじゃない!

「はああー?そんなことしません!」

調子に乗ったパジャマ君にガツンと宣言してみせる。天才だから何をしても許されるという訳ではないのよ!最近やたらと私に手間ばかりかけさせて、どういうつもりなのか、一度言い返してやろうと決めていた。

ところが切り返すのとほぼ同時に、ニアが「それにナナさんは私のものを勝手に捨てたりしないでしょう」と発言したので、結局私は言葉遊びの餌食にされただけだった。

憤慨の色をどうやって引っ込めようか迷いながら、そういえば以前メロがニアについて「あいつとまともに会話すると厄介」とこぼしていたことを思い出す。
あれは的確な分析だったと思う。何かしらのスイッチが入ってるニアとの会話は、それはそれは消耗する。

あの時のメロの面倒そうな顔が浮かんで思わずにやけてしまう。散々文句を言いながらも分析はばっちりです、にじゅうまる。二人の関係性は本当に独特で特別。

「ねえねえ、ニアはメロのこと、どう思う?」

私からの唐突な質問に、一度も目を合わせなかったニアが、ちら、とこちらを見る。

「突然ですね。」

「突然でもないの、この間」

「メロが何か言ってましたか。」

「ばれた…!」

「今の聞き方で勘付かない人間がいるなら連れてきてもらっても」

「あーあーあーあーごめんなさいね!私の聞き方が唐突で下手くそでした!」

こちらを見るニアにふくれっ面を返す。
子どもだったら、初対面だったら、睨んでいると判断されそうなニアの視線は、私には勝ち誇ったように映る。どちらにしてもあまりいい顔ではないか。

だけど。

こんな時ちょっとだけニアの瞳が優しくなっているように感じる。悪戯を仕掛ける少年のような、そんな気がして。私はいつもその吸引力に負ける。
だからこうやって、懲りずに話しかけてしまうのだ。

手元に視線を戻したニアは、こちらもまた的確にメロについて語り出した。

「これといって特別に捉えることはありません。冷静さには欠けますが、知能水準は極めて高く行動力のある人間だ、と。」

なるほど、天才同士の分析を聞くことができて光栄です。
でも聞きたいのはそこじゃなかったり。

「んー、例えばライバルとして意識することはあったりするの?」

「ライバル」

少しの沈黙。

触れてはいけないところだったかな。
この部屋では沈黙なんてよくあること、それでもちょっとドキリとする。

杞憂だったのかニアはあっさりと沈黙を破った。

「ないですね。少なくともメロを気にして行動を変えることはありえません。あれはいい遊び相手です。」

…メロが聞いたら怒りそうなことをさらりと言い、ニアは最後のピースをはめる。
何だか貴重な話が聞けた。メロの前で絶対口を滑らせないように気をつけなくちゃ。

この話は終わりにして部屋を出ようと思ったその時、パズルの再々々スタートを切ると思われたニアの手が、想像と違う方向に動くのを視界の端で捕らえた。

上に伸ばした指先で、髪の毛をひと捻り。

…何か、考え事。

そう感じつつ、これ以上話を掘りかえす勇気は出ず黙ってその姿を見つめる。

ニアはほんの少しの思案の後、今度は読み通りパズルを返し、再々々スタートを切った。そして一言、

「いや、場合によってはあることもあるかもしれません。」

と呟いた。

「それって、メロを気にして行動に影響が出ることもあるってこと?」

「解釈はナナさんにお任せします。」

「お任せされたらとんでもない解釈しちゃうもんね!」

「ではナナさんは残念な頭の持ち主だ、と私が解釈するまでです。」

「ムキーーッ!」

地団駄を踏むようにしてドアのところまで進み、何か捨て台詞でも吐こうと思ってドアノブを掴みながら振り向く。
ところがこの角度から唯一見えるニアの口角がとても楽しそうに上がっていたので、結局何も言い返せなくなる。
窓から差し込む陽がオレンジ色になったのを見つめながら、「またね」と挨拶だけして私は部屋を後にした。


**


**side・N**

メロをライバルとして意識しないのか、とナナに問われた。

幼少の頃は成績の順位がついた為、周囲はよく私とメロを比較した。

メロと私の成績が逆だったなら。

構わない、としたいところだが正直なところそうなることは想像できない。

成績…知能においては自分の方が優れている、という密やかな自信は存在するのかもしれない。

だが少なくともそれを普段意識することはなく、メロに対し優越感や執着、まして嫉妬心を持つことは…少なくとも今まではなかったと言える。

「ないですね。」

ナナに言葉を返し、私の言葉を咀嚼する彼女を密やかに観察する。どう興味を示すか静かに楽しみながらパズルを続ける。


―――しかし。


何か違和感が残る。

最近確かにメロの存在が私の脳裏をよぎることがある。

指先が刺激を求め、髪に向かって手が伸びた。


成る程。

今はナナがすぐ傍にいるから薄れていたが…

「いや、場合によってはあることもあるかもしれません。」

自分の言葉を訂正する。
含みながら返した言葉に、ナナが確認の声をあげたが、そこまで親切に内心を明かしてはやらない。

悔しがったナナはバタバタと足音を立てこぼすように挨拶すると部屋を後にした。

Rival

場合によって…

例えばナナ、あなたが絡むと。

メロに限らずナナに関わるすべての者に対し薄い嫉妬心を感じることが、

あることもある、かもしれない。
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