こうよう
「紅葉を見にいこうよう。」「はい!?」
紅葉を見たくない訳ではない…Lが似つかわしくないダジャレを口走ったから。
「日本ではお馴染みの洒落だと、松田が言っていました。」
松田呼ばわりしているくせに、信じている訳がない。
まったく…本当にこの人はややこしい。
「まぁでも確かに…せっかく日本にいるんですし、紅葉や温泉を体験してみたいですね。」
「温泉。」
これは何だかおかしなことを言い出す予感。
「混よ…」
「お待たせしました。どうぞ!」
Lの発言を遮って、粉糖のかかった薄茶色の小さなお山を差し出す。
やっぱり秋は芋栗にひかれちゃう。
「…。
モンブランですか。久しぶりです。」
「私からお出しするのは初めてですね。以前はワタリが?」
「はい。」
「さすがワタリ。季節感あって風流だなぁ。
あ、でも私も今出してるんだから、風流ですよねっ。」
閃いたように満足に一言告げると、
「私も風流です。」
Lが裏返した親指をかじりながら呟く。
「風流を理解している人は温泉と聞いて真っ先に混浴を思い浮かべたりしません。」
「…で、どうなんですか。混浴。」
「混浴の習慣がない割に興味はあるんですね。」
私は諦めたようにため息をつきながらモンブランと食器をLの前に並べる。
まったくこの人は…そう思いながらも、Lと一緒にこの季節を迎えられる喜びを小さく噛み締めている、秋のはじまり。
*end*