不安な夜に。
「どうしたの?ナナさん。」相沢に声をかけられたナナは伏せがちにしていた目を少しだけ上げると、
「私、苦手なんです…。」
と答えた。
休憩中の捜査員がテレビで見ているのは、心霊特集。
「ははは、ナナさんらしいな。心配しなくても作り物だよ。」
安心させようとした夜神局長が声をかけると、気を使ったナナは薄く微笑むが、緊張した背中は固くなったまま。
ナナは内心で(こんな事件の最中、心霊を作り物と笑えるかしら。)と思う。
Lは我関せずとテレビは見ずにキーボードを叩いている。
「何か甘いものでもとってきますね。」
ナナはその場を離れた。
*
その日の夜。
各自が自室に戻った後、ポツポツと雨が降り出した。次第に広がった漆黒の空はそのまま深夜へと姿を変え、止む気配もない。
湿った空気にいつもより闇深い空。
ナナはベッドに入りそろそろ寝ようとしていたが、昼の出来事をふと思い出してしまった。
こういう時に思い出すのは厄介なもので、忘れたくとも何度も思い浮かべてしまう。
映像こそ見なかったが、少し聞いてしまった音声が脳内に繰り返し蘇る。
目をつぶって他のことを考えようと集中するも、うまくいかない。
一人の寝室は暗く静かで、恐ろしさは増すばかり。
どうしようか、ワタリに一緒にいてもらおうか、Lはまだ捜査室に残っているだろうか。
捜査室に行って、誰かといる方が安心できるのでは、とナナは寝室を出ることを決意した。
少しの足音を立て、ドアまで近づくと、ドアの外側から何か物音がしたような気がする。
(どうしよう…)
恐怖から逃れる為に部屋を出たいが、ドアの向こうのことも恐ろしく、行き詰まってしまう。
悩みながら握ったドアノブが温まっていくのを許していると、突然ドアがぐっと引っ張られる。
「きゃああああぁっ」
「…L?!」
「ナナさん?」
へなへなと力が抜けていくナナの肩をLが支える。
「こわかった…」
子供のような本音がナナの口から滑り落ちる。
「そうなる頃かと思って来ました。」
Lがいつもより穏やかに話す。
聞きなれた声。心底恐怖に怯えていた反動でナナは思わずLの胸に顔を埋めてしまう。
その流れに身を任せ、Lはナナを抱きしめる。
「一人で日本まで来てもらい、この天気でこのだだっ広い部屋では…不安でしょう。配慮が行き届かず申し訳ありません。」
「い…いえ!私は覚悟してここまで来たんです!配慮なんて、こちらこそ余計な手間をLにかけさせてしまいごめんなさい!」
ナナが身を離し顔を上げる。
まだ少し瞳に涙が潤んでいるのを見たLは、再びナナを抱き寄せる。
「今の世の中において、キラの能力と心霊現象はそう遠いものではありません。」
「…はい。」
ナナは自分の内心と同じLの言葉に安心する。
「落ち着くまでこうしています。」
「…はい。」
ナナが大人しくなったところで部屋を見回したLが口を開く。
「思っていたより片付いてますね。」
「ぁっ!いや…色々散らかってます…」
「"思っていたより"です。」
「…」
ナナの冷静になってきた頭がこの状況に疑問を見出す。
「っていうかL突然部屋に入ってくるなんて…」
「私は全室のキーを所持してますから。他の捜査員の部屋にも入れますよ。入りませんが。」
「そ、そうですけど、突然入ってきたら、こ、困りますっ」
「でも今日は助かったでしょう。」
「う…」
日常的に許可なく入る気はありません、とLが言い、ナナは今日の昼のちょっとした出来事でも、ナナにはダメージだとLが丁寧に察してくれたことに感謝する。
Lが再び口を開く。
「必ず解決してみせます。」
「はい。」
ナナはLの温かさに触れながら、必ずそうなる、と胸に強く思った。
*end*