prologue
プロローグというより、これはひとりごと。ふと今自分が日本にいて、そしてコーヒーを淹れる為のお湯を沸かしていて、何故ここで湯気を眺めているのかしら、と思って、振り返っただけのこと。
*
何でここにいるかって、それはワタリに呼ばれたからに他ならない。
Lのお手伝いができるなんて、ハウスにいる者にとってこの上なく名誉なこと。
誰にも言えないで、日本に来たのだけれど。
初めて”L”に会った時は驚いた。
たまにハウスで見かけたことのあるお兄さんだったから。
「はぁ…」
あの頃を思い出すと大きなため息が出る。
ハウスで数度だけ会話した時、あの正体不明のお兄さんは、エキゾチックで色気があって、それなのに不思議な包容力があって、つまるところ素敵な人だった。
でも今あそこにいるLは―――
私は勘のいい主人に気付かれぬよう、そうっと上目であちらを覗く。
パチパチと無表情でキーボードを叩く姿…
本物の、いや、捜査中の?…分からない。
とにかく今私が触れ合っている"L"は、あのお兄さんとはうってかわってやりとりしにくい。
何せ掴めない人なのだ。
これといって偏屈という訳でもないのだけど、反応が乏しいのでこれでいいのかよく分からずに接している。
こだわりも多い。と思ったら驚くほど無頓着な時もある。
厳しく注意されることはないけれど、じわじわと追い込むように指示するので余計に気を遣う。
そしてすぐに揚げ足を取る。からかっているのかおちょくっているのか、距離近く迫ってきたと思えば、声も手も決して届くことのない遥か遠くにいるように感じさせる、とにかく得体の知れない不思議な人。
*
そう散々に言っても、私はここで大人しくコーヒーの用意をしている。
何故かって
結局Lの傍にいられることは、特別秀でた才能もなくハウスにいた私にとってこの上のない名誉であり、やっと見つけた"必要とされる場"だから。
だから私はLのことを考え、今日もあの背中を追い続けている。
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