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prologue
草木が青々と生い茂り、爽やかで心地よい風が吹く。
広い庭、整えられた花壇、駆け回る子どもたち。
昔ながらの造りでありながら、そこかしこにセキュリティが張り巡らされている美しい洋館。
厳重に管理された門に刻まれるこの施設の名前は、ワイミーズハウス。


「ナナちゃん、一緒に遊ぼうよー!」

我先にと次々話しかけてくる子どもたちは皆、何かの才能に秀でた孤児たち。

「また後でね」

小さなおでこにキスを落として返事をすれば、「なんだよー」とふくふくした小ぶりな手がキスの跡を照れて隠し下がっていく。

私にとって家族同然の愛しい子どもたち。


彼らには知らされていない秘密が、この施設にはいくつかある。


時々現れては一緒に遊んでくれるお兄さん。彼らは実は世界規模レベルの事件を解決している探偵であること。

そしてそのお兄さん達はみんなと同じ、この建物の中に住んでいるということ。


私は屋内に入ると、廊下を進み階段を上り、個人的に秘密棟と呼んでいる場所まで進む。

ここから先はワタリの"重要な物"置きだから、子ども達は近付いてはいけないことになっている。

中に入っているのは…確かにワタリの重要な”者”かも。
そう思うと自然に頬が緩む。
辿り着いたドアの前で手のひらのデータを認証し開けると、広くスペースを取られたいくつかの部屋が現れる。


L、ニア、メロ、マットの4人は今、この場所で暮らしている。

キラ事件時はそれぞれ身を危険な場に投じていたものの、皆命を落とさずに解決してくれた。
そして密やかにこのハウスに戻ってきてくれたのだ。

彼らには、あの事件のように皆目見当もつかず原因を解明できない事柄はほとんどない。

今はそれぞれに自室と捜査用に使える別室を持ち、趣味の延長程度に世界の事件を振り分けて謎解きしつつ…各自したいことをして過ごしている。

秘密棟で捜査な日々…と言ってもずっと引きこもっている訳でもなく。
メロやマットが潜入捜査に出かけたり、SPKのメンバーがニアに会いに来たり。
メイン棟まで簡単に行ける別ルートもあるので、Lが子ども達の場にそのまま混ざっている時もあるほどに、自由気ままな生活を送っている。

ワタリが"ワイミーさん"だった頃に託された縁からこのハウスで育ったものの、私はいわゆる天才ではなく、この家のお手伝いをしながら生計を立てて暮らしている。


*


「まったく…」
ティータイムに向けて用意したスイーツ、チョコレート、煙草、各種ドリンクを積み込んだ重いバーワゴンを押して進む廊下で、恨みごとのように小さく独り言を漏らした。

気合いか呆れか、それとも安堵か。自分でも真意の分からないため息をついた直後、いつの間にか後方に立っていたらしいLに突然声をかけられた。

「ナナさん、今何か言いました?」

まずい!聞かれちゃったかな…!?

「大丈夫です、聞こえてません。もう一度、大きい声でお願いします。」

う…聞こえてる…心の声まで。

「何でもないよ、今お茶用意したから飲みましょう?」
「まったく、とかなんとか」
「聞こえてるなら聞かないでください…」
「ナナさんの口から聞きたいと思いまして」

相手は世界一の探偵、最後の切り札なんだ、バレているなら仕方がない。

「まったく、ティータイムの準備もままならないな、と思っただけよ」
「私、ショートケーキがいいです」
「聞いてた?もう…」
「ナナさんに陰口を言われていたので癒すのに糖分が必要です」
「陰口じゃないよ!」
「では何でしょう?ティータイムの準備もままならない私達の存在とは」

Lが追及するような視線を送ってくる。ずるい。
試すような視線を受けたら、降参するしかない。

「大切な人たち…かな」

本当だよ。心から。

見つめ返すと、満足そうな目をしたLが人差し指を口元に運ぶので、何だかとても恥ずかしくなってしまう。

「よ、呼んでくるね!」

見つめられたLの視線から逃れるようバーワゴンを置き去りにして、私はその場を離れた。


*


廊下を進むと、今日はよく晴れているのが分かった。
窓から明るい陽が差し込んでいる、穏やかなハウスの昼下がり。
ぽかぽかと暖かいのは陽光降り注ぐ背中だけではなくて。
もう一つついて出たため息は、幸せが溢れた分。

脅かす者のいなくなった平和な日常を、私は今、この家で送っている。


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