7/6七夕前日
どこから持ってきたのか、小さな笹の枝が飾られて6日。いよいよ七夕が当日を迎える。
笹の枝を手に入れた日、彼女は願い事を書いてくれと、細長い紙を熱心に手渡して回っていた。
「七夕のお願い事は精進の祈りだからね!上達したいことを書いてよ?」
そう熱く語っていたのに。
散歩兼人間観察から戻ったLは、飾られた短冊を見て空回りの織姫を不憫に思う。
「チョコが食いたい」
「新作のゲーム!」
「静かな環境を得られますように」
メロとマットに関してはもはやクリスマスと行事を履き違えている疑惑すらある。
これでは彼女は憤慨するだろう。彼女の熱意を思いながら、Lはポケットに突っ込んでいた短冊を取り出し、それを骨張った指先で優しく笹の葉に引っ掛けたのだった。
7/7七夕
事態はいつも唐突に起こる。
何かとイベントには張り切る彼女が、今朝はきっと騒がしいだろうと、皆それぞれ考えていたのに。
リビングに集合した面々は、テーブルの上を見つめ推測する。
「…さすがに怒ったのかな?」
「お前がゲームなんて書くからだろ」
「は?メロだって似たようなもんだろ!」
「私とメロはかろうじて願い事といえる文脈です。問題は…マットとL」
「私もマットと同罪ですか」
「っていうか、俺よりLの方がひどいだろ!」
4人の眼前には、短冊が4枚、綺麗に並べられていた。それはもう、角を揃えて美しく。
端から、
「チョコが食いたい」
「新作のゲーム!」
「静かな環境を得られますように」
そして、
「糖分」。
4人は改めて静まり返る。
「求めているものを端的に表現したので、メロとマットの要素を掛け合わせた感じですね。最小文字数に抑えられました」
「無愛想って言葉があります」
「…まさかニアにそれを指摘されるとは。ショックです」
マットが「ふざけてる場合じゃ」と言いかけたところで玄関ドアの開く音がした。
「ただいまー!」
頭脳明晰な4人にも緊張が走る。
機嫌が悪い訳では…なさそうか?
「チョコに、ゲームに、角砂糖!買ってきちゃったよ!私がいない間、静かな環境は得られた?」
ガチャリと開いたドアから、思いの外明るい笑顔が飛び出して、それぞれが一様に胸を撫で下ろしたとか、しないとか。