桜を映す潤んだ目元。
ほの赤い頬。無防備な唇。
「綺麗だね〜」
ふふふ、といつもより無邪気に笑う彼女は今宵幻想的な景色の下この上なく上機嫌。
とろり甘えた視線をこちらに浴びせかけ、感想を述べている。
それはまるで誘うように。たぶらかすように。
誤算だった。
まさか彼女がこんな風に酔うとは。
完全に見誤った。
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「…なんか、ニア怒ってる?」
「いえ」
「なんか怒ってるよねえ?」
不満に思ってしがみつく。多分嫌じゃないはず。
いや、嫌かな?嫌でもいいや。私は好きだもん。
つまり、大胆。
「寄らないでください酒くさい」
「そんなのんでない」
事実よ。
酒の力、風なだけ。
酒の力、風に勇気をもらってるだけ。
いつもより大胆なふりをしてるだけ。…多分ね。
いや実はお酒の力かな?そんな酔ってるとは思わないのだけど。
「もう絶対飲ませません」
「なんでよ!」
「…さっさと歩いてください」
「なによーーー優しさが足りなっ…わっ」
段差に躓きそうになった私の手をさっと取ってくれるニア。ああ、好き。
このまま抱きつきたいけど、それをやったら怒られるだろうなあ。
考えているうちに彼が口を開く。
「こういう時に他の男にかっさらわれたら堪らないので。金輪際飲酒禁止。」
じろっと睨むニアがこわい。
そしてかっこいい。
そして分かった。
不機嫌の正体。
お酒の力、風な私はニアの腕を絡みとる。
それから彼を覗き込む、精一杯の上目遣い。
「じゃあ…ニアと二人きりの時だけならいい?」
言うなり恋人は揺らぎ出す。
そして出された結論は。
「…考えておきます」
「おや、まんざらでもないな?」
ライトアップされた桜の元、特別に甘えて帰る夜。
受け入れてもらえたみたいな気分になって、春っていいなって思った。
あれ、春は関係ないか。
だめだ私、もしかしたら本当に酔っているのかもしれない。
(…ニアに)