ワールドウィザウトハー 8


「あぁ?ああ…何となく?」
『そんなので怒られたこっちの身にもなってほしいね!』
「だから悪かったって。色々大変だったんだよ」
『あっそ。俺だって色々大変だったんだぞ!』

アルフレッドの声にひどく穏やかな気持ちで笑う。家の電話の子機を持ってベッドに深く腰掛けた。

結局障害物レースはふたりの組が優勝した。その後校内を歩く度にラブラブだとか可愛い彼女だねとか散々からかわれて、今に至る。

今日は楽しかった。何が一番楽しかったって、アルフレッドと仲直りできたことが。
目を閉じる。今日会ったばかりだけれど、また会いたいと思っていた。

♪〜

軽快な音楽に目を丸くする。アルフレッド専用に設定しているものだ。
けれど、まさに今話し中のアルフレッドが何の用だ。アーサーは耳に子機を当てて固定して携帯を開く。

…ちなみに、アルフレッドのメールだけ名前を付けてフォルダを分けてるのは秘密だ。


2010/9/4 20:32
From:ジョーンズ
【無題】
明日会うときこの前の続きしない?



簡潔な文に息を詰める。
この前、が何を言わんとしているか分かって顔が赤くなった。つまりこの前更衣室で行おうとしたことをしようと言うのだ。

「…この野郎」
『どうしたの?』

アルフレッドがすらっとぼける。どうにかしてギャフンと言わせてやろうとアーサーは簡潔な答えにすることにした。送信する。

「おら、心して見ろよ」
『何のことかな?あらら、こんな時間にメールが』

芝居がかった口調でアルフレッドがごそごそしだす。
どんな反応をするだろう。アルフレッドは笑うだろうか、喜ぶだろうか、それとも通じないか。


『……』


電話が切れた。


携帯を離すと風呂上がりで生乾きの髪に触れていた所為か濡れていた。もしかしたら、引かれた?一抹の不安がよぎるが、まあ別にそれでもいい。

ぽとんとベッドに寝転がる。疲れていたらしくて、眠気はすぐに訪れた。




けれどそれもひどいチャイムの音に妨げられる。時計を見て一気に疲れた。15分しか経っていない。

こんな夜遅くに誰だよ、と思いながら二階から下に降りていく。一人の家は大きすぎるが、望んだことだ。
まだ鳴るチャイムに辟易しながら扉を開けて―――言葉を失った。

インターホンのスイッチに凭れたままうつろな目をしたアルフレッドがこちらを見る。ゆらりと動いたアルフレッドがアーサーの身体に凭れ掛かった。
あり得ない。アルフレッドの家からここまで自転車でも40分以上掛かるはずだ。
そしてふれ合う心臓の音に驚く。尋常じゃない跳ね方だ。すり、とアルフレッドがアーサーの身体に耳に唇を寄せる。

「きみ、あれ、反則」

はむりと噛まれて舐められた。










翌朝、少し痛む腰を宥めながらベッドの下に放られたアルフレッドのバックに手を伸ばす。ずるずる引きずってきて携帯を取り出した。

アーサーの腰に手を回したまま眠るアルフレッドからは逃れそうになかったが、裸のまま眠るのは素肌が当たって恥ずかしい。

携帯を開く。受信ボックスにはロックが掛かっていなかった。フォルダ名を見て急激に恥ずかしくなる。

【kiss】

何てことだ。羞恥にかられながら開ける。アーサーはううと心の中で唸りながら一件目を見た。鍵のマーク。

「うわ、保護かけてやがる…」

最悪だ、恥ずかしさで死ねる。とりあえず保護を解除しようとアーサーはボタンを押した。

「はい、そこまで」

けれど突然伸びてきた手に画面を掴まれる。アルフレッドがぎゅっと抱き締める力を強めた。

「人の携帯勝手に触っちゃダメだろ?」
「俺が送ったメールだろ!」
「俺が貰ったメールだよ」

後ろを向くとやけに優しい顔をしたアルフレッドがこちらを見て笑う。一体いつから起きていたのだろう、寝起きの顔ではない。
けれどアルフレッドの右側の髪はくるんと束で跳ねていて、間抜けったらない。

思わず笑ったアーサーにアルフレッドは不思議そうな顔をして、でも気にしない風に唇を寄せる。

「今日の打ち上げはサボりだぞ」

自然と重なった唇に力を抜いたので、腕の中の携帯はゴトリと音を立ててベッドの下に落ちた。

ディスプレイは光を放っている。



2010/9/4 20:33
From:アーサー
【Re:】




窓から差した朝日がディスプレイに映る愛を白くやわらかに塗りつぶした。










100418
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