ワールドウィザウトハー 5


「―――だからさ、他の奴と仲良くすんなとも言えねえだろ。どうすればいいか分かんねえよ」
「そうですね。まあ、やっぱり思い切って言っちゃうしかないんじゃないですか?」

店内の人がまばらなため注文する客もおらず、厨房の中で雑談した。結局バイト先で合流した少女はアーサーの相談に親身になって聞いてくれて、ついスイスイ言ってしまう。

恋人の名前は出さないまま言い切った後、アーサーははあとため息をついてガシガシ頭を掻いた。

「本当、上手くいかない」

そんな姿を見て少女がぽつりと呟く。

「先輩に好かれる人って幸せですね。こんなに想ってもらえて」
「あ?んなことねえよ、てか可哀想なくらいだぜ。俺はあいつに不釣り合いだからな」

性格も良くて顔も良くて賢くて運動神経抜群。そんなアルフレッドが選りにも選ってアーサーを、男を好きなんてどんな罰ゲームだ。

「でも、私なら幸せなのに」

割りと真剣な色をにじませた声にアーサーはふわりと微笑んだ。

「サンキュ」

アーサーが壁に凭れて腕を組んだ。一緒にいるだけで幸せなアーサーとは違う。アルフレッドを自分が幸せにしてやりたい。

少し苦い顔をした少女は誤魔化すようにキュッと唇を噛んだ。






2010/8/28 21:34
To:ジョーンズ
【Re:Re:Re:Re:Re:】
もっと真面目にバスケしろばーか



メールを返信してパチンと携帯を閉じた。合宿中のアルフレッドとは何だかんだで連絡は取っている。他校との合同は厳しいらしいが、楽しいとも言っていた。
つまらないのは自分だけだ。
ベッドにごろりと寝転がる。途端に携帯が震えだして、急いで取ると発信先はアルフレッドだった。

(え、何で)

ドキドキしながら取る。耳を震わせたのは、久しぶりに聞く懐かしい声だった。

「アーサー」
「アル?」
「悪いね、なんか声聞きたくなって」
「みんなとか、いいのか?」
「いいよ、みんな花火に夢中だから」

胸が鳴る。声が聞きたいなんて言われると思っていなかったから、ひどく嬉しかった。
身体を起こす。気分が高揚していた。

「で、何だよ」
「…あのさ、最近変なこと考えてんじゃないの」

見抜かれていた。少し目を開いて、それから身体を弛緩する。
驚いた。けれど確かにそれはアルフレッドの声で、アーサーにとって驚きや戸惑いよりも喜びの方が大きい。

「言ってくれなきゃわかんないだろ」

電気に変わった声はそれでも優しい。喉に詰まったような苦しい思いを今吐き出してしまえば、楽になるのではないか。

「あ…、」

胸を押さえる。付き合いだしてから、本当はずっと聞きたいことだった。


お前はどんな綺麗な女がいても、俺を選んでくれるか。


「アル君!何やってんの!」


遠くで聞こえた可愛らしい声に、スッと胸に氷を詰められたような気分になった。

「…時間だな、切る」
「ちょっ、アー」

ぶち。電源を落とした。携帯をゴトリに床を落としてぼふりと枕に顔を埋めた。
自分は何を口走ろうとしたんだ。
耳の中で声がぐるぐる回る。

『アル君!』
「アル君!」


「…ハッ、気持ち悪ィ」

似合わない高い声は不協和音だ。自分には出来ない。
胸が苦しくて仕方なかった。







100414
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