ワールドウィザウトハー 4


「おいアー…」
「こら、黙っとけって」

後ろでクラスメートの声がしたが聞く気はない。
最近驚くほどイライラしている。理由は分かっていた。アルフレッドを見に行くといつも隣にいるマネージャーに言えない苛立ちが胸の内で燻っているからだ。

板に一心にペンキを塗りたくる。何に苛ついているって、こんなことで独占欲を見せる自分にだ。

もう22日ということもあり、ここ最近毎日文化祭の準備に学校に来ている。だから今日もアルフレッドに会いにいったけれど、マネージャーの愛らしい笑顔を見て帰ってきてしまった。

(堂々としたらいいのに)

言えないにしたって、仲のいい友達として自分の方が近いと示してしまえばいいのに。―――示せるなら、どんなに良いか。

上手くいかない。アルフレッドと付き合い出してもうすぐ5ヶ月だ。それなりにケンカもしたけれど今回はそんな問題ではない。何せアルフレッドは悪くない。

ただ、言えなくて苦しい。

「アーサー先輩」

突然話しかけられて不機嫌さを隠さぬまま仰ぐと、バイトの後輩がいた。そういえば今日は一緒に行くとか何とか言っていた気がする。

「何だ、早ぇな」
「直で来ましたから。先輩顔怖いですよぉ」
「気のせいだろ」

無意識に怖い顔をしていたのだろう。別にどうでもいい。自然に前の席に座ったバイトが話しかけてくるのを適当に返しながら、アーサーはアルフレッドのことを考えていた。

もう終わる頃のはずだ。今日は会えないだろうか。最近も何だかんだで会っていたから、一日話さないのは少し物足りない。

「早く学校始まればいいのに」
「えーそうですかぁ?忙しくなるからやだな」

そうだ、自分も昔はそうだった。でも今は、嫌でも毎日顔合わせられるあの席が恋しい。

(アルフレッド)

会えばきっとこの嫌な感じもなくなるのに。


「アーサー」

聞き覚えのありすぎる声にバッと顔を扉に向ける。
そうして、落胆した。
何故だか不機嫌そうな顔をしたアルフレッドの隣には、当たり前のようにマネージャーが寄り添うように立っている。

ぐるぐると嫌な感情が渦巻く。怒りすら込み上げた。アルフレッドは自分のものなのに。

「…お似合い」

そうして目の前の少女からぽつんとこぼされた言葉に血が沸騰するかと思った。

「言うな」

隣の少女が怯えたように肩を揺らす。空気がスウッと冷えるのが分かった。ガタリと派手に音をたてて立ち上がると荷物をひっ掴んでベランダ側の扉に向かった。

「え、ちょっ、せんぱ…っ」
「来るな。バイトは後で行く」

気付けば教室は自分と彼女の二人きりだった。どうやら恋人だと勘違いされたらしい。

処理できない。彼女面するなと、俺のだと言いたい。でも言えない。
本当は分かっていた。アルフレッドが否定しそうで怖いのだ。俺は君のものじゃない、やっぱり女の子がいいと言いそうで。

アルフレッドがアーサー以外を好きにならない保証なんてどこにもない。
自分はアルフレッドが必要だけれど、アルフレッドがアーサーを必要とする魅力など自分にはないのだ。

「アーサー!」

追ってきてくれて少し心が弛む。息を切らしたアルフレッドが腕を掴んだ。

「何怒ってんだい」
「うるせえさわんな」
「…ったく、意味分かんないぞ」
「うるせえ」

ぐるりと後ろを向いて身体を離したまま額だけアルフレッドの肩に押し付けた。あたたかい。
アルフレッドが優しく呆れたようにぽんぽんと背中を叩いた。

「何でそんな情緒不安定なの」
「うるせえ」
「はいはい。――明日から31日まで合宿なんだ。だからしばらく会えない」
「…そうか」

額を押し付けたまま目を閉じる。ベランダのここからはグラウンドのサッカー部の声がよく聞こえた。
合宿。

(ずっと2人でいるんだろうか)

醜い嫉妬はアリスだけで十分だったのに。アーサーはぎゅっと目を瞑った。










100413
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