ワールドウィザウトハー 2


アルフレッドが何故あんなにアーサーに見に来て欲しがったのかは分からない。それでもきっと理由があるんだろう。のっぴきならない大事な理由が。

パチリと目が覚めて、昨晩から思っていたことをしようと携帯を開く。頭はすっかり覚醒していた。


2010/8/20 07:20
To:ジョーンズ
【無題】
ベスト尽くせ。後悔すんなよ。



パタリと閉じる。文化祭の準備の集合は9時だった。前住んでいたアパートよりは学校から遠いけれど、実家だって学校に近い。また眠ろうとしてすぐに軽快な音が鳴る。
アルフレッドの音は『アリス』だった時から変えていない。俊敏な動きで開いた。


2010/8/20 07:23
From:ジョーンズ
【Re:】
勝利の女神に励まされちゃ負けるわけにはいかないな



「バカめ」

フッと笑って、気付かれないようそっと携帯に口付けた。







「あれ、アーサーどこ行くんだ?」
「ちょっとな」
「女とイチャイチャなんかしてたら許さねぇぞー!」
「ハッ、言ってろ」

女子たちは一団になってどこかに食べに行ってしまった。アーサーは適当にパンを食べて教室から出る。ペンキを使う作業だったのでTシャツに学校の少しだぼついたハーフパンツで第2体育館に向かった。

近付くにつれきゃあきゃあと黄色い歓声が聞こえ始める。女子たちよりはアーサーは大きい。でも彼女たちが群がる入り口の中を後ろから覗くにはあまり人が多くて見えない。

(後ろ回るか)

体育館の裏の、入り口に緑のネットが張られたところの方があまり人は集まっていない。アーサーは急いで裏へ回った。

(しっかし、女ばっかだな)

夏休みにも関わらず女子たちが嬉しそうに見ている。一年から三年まで、その上ちらほら他校の制服も混じっていた。
そして、上る名前はひとつだ。

「見た?今のアルくん!」
「ジョーンズ先輩格好いいよぉ!」
「本当アルフレッドってばすごーい」

心中に苦いものが混じる。女々しい自分が頭をもたげた。
誰もアルフレッドを見なければいいのに。

(マジで気持ち悪いな、俺)

こんな自分は誰にも見せられない。例えアルフレッドにだって見せられっこなかった。






裏手についた瞬間、すごい歓声が上がる。何事だと思う間もなく分かった。中を覗き見た瞬間、アルフレッドがシュートを決めた。

「うわ」

アルフレッドがリストバンドで額の汗をぬぐう。それは、誕生日にアーサーがプレゼントしたものだ。

(やべえ)

格好良い。
口を手で押さえて緩む口を隠す。何だあいつは、格好良すぎるだろ。チラリと見ると、ばっちり目が合って息を飲む。
そうしてニヤリと笑ったアルフレッドは、こちらに向かってピースした。

キャー!と黄色い歓声が沸く中、アーサーだけは耐えられずうずくまる。

(反則だ)

あれじゃ格好良すぎる。
惚れたのは野郎にも関わらず、呆れるほど骨抜きにされてる。

「アーサー先輩?」

突然話しかけられた。驚いて顔を上げると心配そうな顔をしてこちらを見る女子がいた。バイトの後輩で、同じ学校の1年と聞いたことがある。

「どうしたんですか?」
「や、大丈夫…だ」

何とか立ち上がって見下ろす。ニコリと笑った少女は砂糖菓子のように可愛らしい。

(この子もアル目当てなのか?)

それでも浮かぶのはこんなことばかりだ。

「でも先輩、どうしてここに?」
「あぁ…暇だったからちょっと見に来ただけだ。…お前は?」
「私はジョーンズ先輩狙いの友達に付き合わされたんです。ほら、あの子」

指差した先には目をキラキラさせてアルフレッドを見つめる少女がいた。何となく嫌な気分がして少し眉が寄る。

「みんな可笑しいですよね。ジョーンズ先輩見たさに練習試合見にくるなんて」
「そうだな」

確かにその通りだ。アーサーだって例え可愛い女子が体育館でバレーをするとしても休みに見に来たりはしない。自分と隣の少女は似ているのかもしれない。

「けど、きっとアーサー先輩が部活入ったらジョーンズ先輩と同じくらい人集まりますよ!」

でも、とりあえずもう喋らないでほしい。このままではアルフレッドの動きに集中できない。腕を組んで気付かれないよう首を伸ばす。

「それはねぇよ。俺はアルフレッドほど人好きする顔じゃねえから」
「ええ、そんなことないと思うなぁ。私見に行きますよ?」
「や、ねえって」
「えー。あ、先輩明日シフト一緒ですよね?一緒に行きましょうよ。明日文化祭の準備あるでしょ?」

やっぱり似ていないかもしれない。アーサーが辟易した気分で口を開いた瞬間、ピーと前半終了の笛が鳴った。アルフレッドはマネージャーにタオルを受け取ったあと、スタスタとアーサーたちのいる方の開放された扉に向かってくる。

そうして一層高くなった女子たちの声を無視して、こちらを見つめて名前を呼んだ。

「アーサー」

呼ばれた方は驚く。後ろを見てざわざわし出した女子は無視して、アルフレッドはちょいちょい手を揺らした。
少しどぎまぎしながら人波を掻き分けてアルフレッドの元に向かう。

アルフレッドが緑のネットをたくし上げる。そして伸ばした手で―――アーサーの頭をチョップした。

「だっ!」
「なに女子にヘラヘラしてんの。ていうかもう教室帰っていいぞ」
「な、お、っ前なあ…!」
「準備終わったら体育館来て」

それから小さく、聞き取れないほど小さな声で呟く。

「ありがとう」

そうしてアルフレッドは背を向けて仲間のところに向かっていった。
少し放心したが、確かにもう時間も時間なので潔く場所を開けるため扉から離れる。後輩が近寄ってきた。

「アーサー先輩、もう帰っちゃうんですか!?」
「ああ。もう用済んだしな」
「そんなぁ…」

たくさんの女の子のいる中、アルフレッドはアーサーを呼んでくれた。それだけで満足してしまった。

「あ、あの、ジョーンズ先輩と仲いいんですね!」

背を向けたアーサーに声がかかる。皆にもそう思われていると思うと余計嬉しくて、アーサーは笑顔を隠しきれなかった。









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