ワールドウィザウトハー 1 |
突然だが、自分は同じクラスのアルフレッドと付き合っている。ちなみに、男だ。 「いらっしゃいま…あ」 「や」 片手を上げてニヤッと笑ったアルフレッドに口をへの字に曲げる。ウェイター姿のアーサーを、部活帰りのジャージにTシャツのアルフレッドが頭から爪先まで見た。口を開く。 「80点」 「うっせ、100点だ」 入り口の近くに並んである椅子に座ったアルフレッドがだらしなく脚を伸ばす。アーサーはファミレスの会計をする所に肘をついて凭れた。 「どうしたんだよ。待ち合わせはバイト終わりの1時だったろ」 「部活が早く終わったヒーローアルフレッドはヒーローを待つアーサーカークランドを紳士的に迎えに来たのさ」 「ばーか、言ってろ」 つまり早く終わって待ちきれなかったのだ。一層意地悪く唇を歪める。 「そんなに俺とのデートが楽しみか?」 アルフレッドは一瞬キョトンとして、それからにっこり快活に笑った。 「当たり前じゃないか!」 悪態づくか、バカにするか―――そんな反応を予想していたアーサーは予想外の反応に目を丸くして、それから瞬時に顔を下に向けた。アルフレッドの視線がちくちくと突き刺さる。 いけない。まさか肯定されるとは思ってなかったから、どんな反応すればいいか分からない。 アルフレッドが意地悪な声を出した。 「で、何でカークランドくんは突然俺から顔逸らしたのかな?」 「……」 「ほら、言ってみなよ。アーサー?」 ああクソ、絶対ニヤニヤしてる。怒りたいけれど顔が真っ赤なのは分かっているから顔を上げられない。会計のカウンターに手を突いて耐える。 駄目だ、クーラーガンガンなのに頬の熱は下がりそうにない。 「…おっ前、性格悪い」 「はは、君がバカだからさ!」 ついに耐えきれず顔を少し上げてジト目で睨むと、アルフレッドは予想通りニヤニヤ笑っていた。 「顔まっか」 悪態づいてやろうとして、ドアに人影が映っているのに気付いた。スクッと背を伸ばしたアーサーにアルフレッドが目を向ける。 カランと鈴が鳴った。 「いらっしゃいませ」 女性の二人組だった。二人は椅子に座っているアルフレッドを見て目を輝かせ、アーサーを見てうっとり細めた。 「何名様でしょうか?」 「あ、2人です…」 甘い営業スマイルを浮かべたアーサーに小さな声で女性が答える。アルフレッドが口を挟んだ。 「喫煙席と禁煙席のどっちがいい?」 「おいこら」 「えと、禁煙席で…」 「分かりました。席にご案内します」 先導して店内に足を踏み出して、そっとアルフレッドを見る。口だけ動かした。 (待ってろ) アルフレッドがピースした。 アーサーにとってアルフレッドは大きな存在だ。大事だし、一緒にいると幸せになれる。 でもそんなことは言わない。一般男子が友達兼恋人の、しかも野郎に惚れた腫れた言うのはあまりに恥ずかしかった。だから、付き合いだした春から夏に変わった今でも、面と向かって好きだと言ったことはない。 (なあなあだからな、今) 時々キスしたりする以外はまるきり仲のいい友達なのだ。アルフレッドに一番近いのは間違いなくアーサーだし、時々恋人なのか親友なのか分からなくなる。 それでもやっぱり時々どうしようもなく愛しくなるから、好きなんだろう。 店の裏口から出る。するとアルフレッドが待ち伏せしていた。 少し驚いたが予想の範囲内だったので無視して話しかける。 「で、どこ行くんだ?」 「決めてないぞ!」 「んじゃ、適当に街歩くか」 そう言うと、アルフレッドがちょいちょいとガードレールに腰かけたまま手を揺らした。店の裏手のここは日が当たらず、道路に車も通らない。何だと行くとするりと腰に手が回った。 「なっ、にすんだよ!」 「んー…おねだりモード?」 急に近くなった距離にあたふたしていると、気にしないらしいアルフレッドが鼻をスリとアーサーの腹に擦り付けた。 「明日さ、バスケの練習試合があるんだ。うちの高校で」 「…知ってる」 「応援来てよ」 「ばか、明日はクラスの文化祭の準備だろうが。行けねえよ」 「昼は休みあるだろ?ちょっとでも来てよ、元気出るからさ」 アルフレッドは必要ない限りこんなこと言わない。だからアーサーは顔を赤くしながら、それでもポンと頭に手を置いた。くしゃくしゃにする。 「仕方ねェな」 「本当?」 「来てほしいなら行く。…こ、恋人…だから、な」 顔を逸らして言うとアルフレッドがまたぎゅうと腹にしがみついた。ワガママも、アルフレッドに甘えられてるのだと思うと悪くない。 「ところでさ」 「ん?」 「さっきの女の子達絶対俺に見とれてたよね」 「ばか、俺の方にだ」 ぺしんと頭を叩くとアルフレッドが嬉しそうに笑う。好きなんて言葉を使わなくてもふたりは繋がっていると断言できた。 ――――できると、思っていた。 100404 - - - - - - - - - - top nxt |