ゲットイントゥハー 13


どう誤魔化そうか頭の中でいくつも案が浮かんでは消える。けれどすぐに全てが無駄だと悟る。
彼は全てを見通すような目でこちらを見つめていた。

「…なぜ、知ってる?」

どうにか絞り出したアーサーの掠れた声に、ジョーンズが片眉を上げた。

「入学式のすぐ後、赤外線でメアド交換したんだけど」

全く覚えていない。アーサーの電話帳は一度初期化していた。
やっぱり覚えてなかったのか、とジョーンズがため息混じりに呟く。

「ま、知ってたらあんなメール送ってこないか」

その呆れた声にムッとして、ふと気付いた。

「でもお前、前にアリスが心配だからって走ってきたじゃねえか」

そうだ、前から知ってるなんて有り得ない。あの時のジョーンズは本当に心配していた。
けれど、ジョーンズはあっけらかんと「演技だよ」と言い放った。

「…うそだろ」

じゃあ全て、ひとつ残らず初めからバレていたということなのか。
カッと頬が熱くなる。逃げたい。取り敢えず調子に乗ってジョーンズを掌で転がしている気分だった自分を消したい。

振りきるように後ずされば腕を掴む手の力はもっと強くなった。

「それで、なんでやめようなの」

顔を上げれば目が合ったので慌てて逸らす。まだ見る勇気はない。

「目逸らさないでよ」

耳に染み入るような声にびくりと身体が揺れる。抗えなくてそろそろと目線を上げた。
目が合う。その澄んだ蒼を久しぶりに見た気がして、ひどく安心した。
言わなければならないらしい。彼は誤魔化しを許さない。

「俺は、アリスじゃないんだ」

目線を外さないように気を付けながら言葉を選ぶ。

「だからお前を騙し続けるのが辛くなった」
「なんで?」
「…お前が大事だから」
「それだけ?」
「っ、もういいだろ?」

ジョーンズが何を言わせたいのか分からない。少し声を荒げると、目の前で薄い唇が動いた。

「君から初めてメールが来たときは驚いた。アリスって名乗るんだ。からかわれてるってすぐ分かったから、本当は返すか迷った」

静かな声が降ってくる。

「でも、暇だったから茶番だけどやってみようって思って。それでやってる間に楽しくなって、もっと君と話したくなった。だから近づいたんだ。それでいつの間にか、好きになってた」

話す内容のあまりのことに立っていられなくなる。ふらついたアーサーの腕をジョーンズの大きな手が掴んだ。その熱さに封じるべき感情が溢れ出す。

「俺は、アリスじゃない」
「はじめから知ってる」

熱い。熱くて、抗えない。
全て話してしまいそうで恐ろしい。

「それで君は、本当はなんでメール嫌になったの」

けれどそんな心配は無駄だった。彼の前で隠し事は出来ない。

「―――妬ましかった」

汚い感情をさらけ出すことはひどく恐ろしい。でも、きっとジョーンズなら受け止めてくれる。
そういう男だ。

「アリスが羨ましくて、それ以上に妬ましかった。俺の方がお前にずっと近いのに、ずっとお前と仲良いのに、お前はアリスばかり見てるから」

言い切って口を紡ぐ。女々しくて恥ずかしい。
けれどそれがアーサーだ。過不足ないアーサーの本当の気持ちだった。

「ばかだなぁ」

掴まれた腕をぐっと引き寄せられて抱き締められる。初めて人から抱きしめられて固まったけれど、そのあたたかな体温に驚くほど心がほぐれた。

「君がとうに一番だよ」

そうして初めてした他人とのキスは、その柔らかな感触がいつまでも残って離れなかった。









2010/4/5 11:42
From:ジョーンズ
【無題】
今どこ?


2010/4/5 11:44
To:ジョーンズ
【Re:】
映画館前


2010/4/5 11:45
From:ジョーンズ
【Re:Re:】
今から行く


2010/4/5 11:46
To:ジョーンズ
【Re:Re:Re:】
了解


映画館前の壁にもたれ掛かってメールを送信する。やわらかな陽光が降り注ぐ。メッセンジャーバッグには最低限のものしか入れてこなかった。遊びやすくするためだ。

アーサーのメールに絵文字はあまり出ない。ジョーンズもあまり出なくなった。男同士ならこんなものだろう。
それにこの気の置けない雰囲気は嫌いじゃない。

「アーサー!」
「アル」

向こうからアルフレッドがこちらに走ってきた。早い到着に少し驚きながら壁から身体を離して迎える。
その顔は春の陽気に当てられてほんの少し上気していた。

「間に合った?」
「ギリギリな」
「遊園地でよかったのに」
「この前行ったじゃねえか」

歩き出す。今日封切りの話題作はさすがに人が多くて映画館に入るのすら列が出来はじめていた。

「明日が始業式か」
「同じクラスかな?」
「そうじゃねえか、俺たち理系で特進なんだから。まあとりあえず、第一回のテスト覚悟しとけ」
「ヒーローはいつもいつでも勝者なんだぞ!」

前の人が動く。その波に合わせながら同時に人差し指を相手の目の前に突き出した。

「「負けたら勝った方の言いなり!」」

重なった声にどちらからともなく笑いだす。これはアリスではできない、アーサーとアルフレッドだけの関係だ。

メールなんかより、直に遊ぶ方がずっと楽しい。

ふたりは湧き出る楽しさを抑えることなく笑いながら、肩を寄せ合って映画館の中に消えていった。









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