ゲットイントゥハー 12 |
家に帰った途端ベッドに突っ伏した。煮え立つような怒りと悲しみに頭の中がぐるぐるして、気分は最低だ。 こんな結果になるなら最初からメールなんてしなければよかった。 ジョーンズが今焦がれているのは存在すらしないアリスなのだ。好きで好きで仕方ない相手は、居もしない女を愛している。 底辺をさ迷う気分に似つかわしくない軽快な音楽が流れた。気分がもっと悪くなる。 ジョーンズがアリスに連絡を取った。 いっそ着信拒否してやろうかと思いながらノロノロと手を伸ばす。どうか当たり障りのない内容であるようにと本気で願った。 けれどそんな願いが叶うはずもない。 2010/3/19 18:24 From:ジョーンズ 【無題】 会いたい こんな絵文字もない短文は初めてだった。手が震えて、見ていられなくて携帯をベッドから叩き落とす。 もう嫌だ。もう何もかも嫌で嫌で仕方ない。 (なりたい) アリスになりたい。 ジョーンズに愛されるアリスになりたい。可愛くて良い子で自分とは正反対のアリスになりたい。 だけど、なれないから。 だからいなくなればいいと思うほど、アリスが憎い。 ガンとベッドを殴る。もうダメだ、これ以上は耐えられない。 アリスを、消そう。 2010/3/19 18:30 To:ジョーンズ 【Re:】 ごめん。メールやめよう 今まで楽しかった 送ってすぐに電源を切った。ジョーンズはアリスに惚れているからきっと返信してくるだろう。そんなものは見たくない。 枕に顔を埋めて意識の端から消そうと試みる。だけれど今日遊んだ時のきらきらした思い出が、笑顔が網膜に焼き付いて離れなくて、それがまた悔しかった。 (忘れよう) アリスがいなくなればまたジョーンズはフリーに戻る。新しい彼女ができるまで一番近くにいれば良い。 拒否し続けてきたメールアドレスも今のアドレスを変えたあと交換しよう。また新しい関係をアーサーとジョーンズは作れる。 アリスのような関係は一生築けないかもしれないけれど、もう無い物ねだりは終わりにしなければならない。 それがどんなに苦しくても、仕方のないことだった。 学校は休んだ。結局ろくに眠れなくてベッドの中で寝返りを打つ。 今日はさすがにジョーンズに会いたくない。落ち込んだジョーンズなんて見たくもなかった。 (疲れた) もう恋なんて懲り懲りだ。しばらく何もしたくない。けれど一人の部屋の寒々しさに、少し参っていた。 ピンポーン。 チャイムが鳴る。ここを訪ねてくるような人間はいないはずだ。無視するともう一度鳴った。 誰だと煩わしく思いながら重い身体を叱咤して玄関に出向く。 途中のトイレで顔を見てしかめて、深いクマを隠すために黒ぶちのだて眼鏡を掛けてから応答した。 「どちら様ですか」 「フランシスだよ、坊っちゃん」 「あ?何だ、お前か」 ドア越しの聞きなれた声に認めたくないが少し安心する。 「お前サボりなんだろ?俺もフケてきたんだ。暇ならどっか行こうぜ」 珍しい。フランシスはあまり無闇にサボらないはずだ。 まあでも今日はそんな気分だったのだろう。 アーサーにしては助かる。誰でも良いからこの淀んだ気分を払拭してほしかった。 「とにかく開けて」 「…仕方ねえな」 面倒くさそうな声を出してドアを開ける。そこにはフランシスが少し困った顔をして立っていた。 言い表せない違和感に眉をひそめる。 「うまくやれよ」 「…っ!」 その声と同時に突然ドア横の死角から誰かの手が伸びてアーサーの手首を掴んだ。 怯んで抵抗出来なかったアーサーに我が意を得たりと誰かは強引に部屋に押し入る。 バタンと扉が閉まる。ジョーンズは険しい顔つきでこちらを睨んでいた。 そのきっちり結ばれていた唇が開く。 「何でメール無視するの」 あまりの事態に頭がついていかない。そうして続いた言葉に、混乱していた頭はさらに混乱した。 「今まで楽しかったって、もうやめようって何。飽きたの」 何を言っているのだろう。アーサーとジョーンズはメールなどしていない。 だってジョーンズとメールしていたのは、アーサーではなくて。 「答えてよ、…アリス」 ただ声が出なかった。 100315 - - - - - - - - - - top nxt |