ゲットイントゥハー 6


気の抜けたパーカーを着たジョーンズは全然気の抜けた顔をしておらず、厳しい顔でこちらに近づいてくる。ただその気迫に圧倒された。

「ど、どうし…」
「アリスが変なんだけど何があったか知らない!!?」

そして予想外のことをすごい剣幕でまくし立てられた。
ガシリと肩を掴まれてガクガク揺すぶられる。脳みそが地震に遭っているようだ。

「メールの様子がいつもと違うんだ。アリスはどこにいるの!」
「え、えと…てか、よくこんなとこまで…」
「フランシスから君の住所は聞いたんだよ!近所なんだろ。今も泣いてるかもしれない、きっと誰にも言えなくて落ち込んでるに違いない!どこ!!」
「ま…待て待てあいつは、」

ジョーンズの真剣な目にゴクリと生唾を飲み込む。こいつは、本気でアリスがいると信じてる。

「数学の宿題が出てて忙しい…って言ってた、ぞ」

ジョーンズの動きが止まる。ただ真剣な目は変わらない。

「じゃあ、君は何でここにいるの?」
「俺、は…まあ、何となく」

目が泳いだ気がする。こんなに至近距離で嘘をつくのは難しい。それでも嘘をつかなければ。

疑うようにこちらを見つめていたジョーンズだが暫くしたらフイとうつ向いた。そのまま肩を掴んでいた手を離して、フラリとブランコに近づいてギシリと鎖を軋ませながら座る。

「…本当たくさん走ったぞ…」

その疲れた声に申し訳ない気持ちになる。アリスを心配したのだろう。来てくれと頼んだわけではないが、それでも。

ジョーンズがこちらを見る。

「で、本当は何でいるの」

ふとその時、ジョーンズがアーサーの服装について何も聞いてこないことに気づいた。アーサーは今喪服を着ている。目があった今ですら、服について何も聞いてこない。
何でだろう。

「…何となくって言ってる」
「ふうん」
「疑ってるだろ、お前」
「そうだアーサー、遊ばない?」

ジョーンズが立ち上がる。よく分からないが何となく後ずさる。遊ばないと言いたいが、言えない。喉が詰まる。

「俺が君を捕まえられたら」

ニコリと笑ったジョーンズに寒気がした。

「何でも言うこと、聞いて、よっ!」

そうして伸びてきた手から逃げたのは多分生物の本能なんだと思う。

何も考えず全力で走り出すがジョーンズも走るので距離を開けられない。公園の中を走り回る。
何でこんなことになっているんだ。それでもジョーンズに捕まってはならないと何故か強く思う。

しかし学校一のジョーンズの脚から逃げ切ることはできなかった。

伸ばされた手にスーツの裾を掴まれて大きくバランスを崩す。ちょうと滑り台の下で盛大に倒れ込んだ。勿論ジョーンズも道連れだ。

「「いっだぁ!!!!」」

鼻を打ち付けて思わずのたうち回る。ジョーンズも同じらしい。ふたりしてじたばたする。

「いっ、てえだろジョーンズ!」
「君が逃げるからだよばかちん!」
「な、追っかけられたら逃げるわボケナス!」
「ナス!?俺が茄子な訳ないだろアーサーのモヤシっこ!」
「誰がモヤシだばかぁぁぁああ!!」

叫びきって深夜だということに気づいた。
息が苦しい。久しぶりに体力の限りを尽くした気がする。いつの間にか頭の中は空っぽになり、そして妙に、楽しくなった。

「…っは、はは」

腹の底から沸き上がってくる。何も考えられない。ただ楽しくてならない。

そして同時に笑いだしたジョーンズに今まで誰に対しても感じたことのなかった親しみを感じた。こいつなら自分を分かってくれるような、根拠のない自信。

しばらく笑って、ジョーンズが思い出したように呟く。

「あ、スーツ…」

ああ、やっぱりスーツだと気づいていたのか。それでも不快な気はしない。

「構わねぇよ。クリーニングに出しゃいい」
「そう?」
「そう。いいんだ、別に」

渦巻いていた嫌な感じは消えてしまった。それは全部、ジョーンズのおかげだ。

「いいぜ。今だけ何でも聞いてやる」

妙に気分が良かった。先程まであんなに最低な気分だったのに。

「好きな女の名前でも、隠してた秘密でも、何でも。大サービスだ」

腕を投げ出して仰向けに転がる。星が散らばっていて、目を細めた。

「なら、何でさっきあんなに落ち込んでたのか」

起き上がったジョーンズがアーサーの顔の隣に座った。
全てバレていたんだなと思うといっそ清々しい。

「墓参りできなかったんだ」

言葉はするりと出てきた。誰にも言うつもりはなかったのに。そしてジョーンズが自分の中で確かな存在になりつつあることに気づく。

「…今日は母さんと父さんの一周忌なんだ。だから敷地内の墓に行ったんだけど、兄達がいないからって門前払いさ。自分家なのに自由に入ることもできない。俺は家族として認められてないんだ。まあ別にそれでもいい。―――花くらいは、供えたかったけどな」

言い切って、ふと自嘲の笑みを浮かべた。
何を言ってるんだろう。こんなことを言っても同情を呼ぶだけなのに。どうせ、「君は大変なんだね」とか「力になるよ」とか、何の意味もない言葉を聞くだけなのに。
哀れまれるのは嫌いだ。でも今回は、哀れまれるようなことを言った自分が悪い。受け入れよう。

「…よし」

ジョーンズの言葉が聞こえて、すぐさま強い力で腕を引っ張られて立ち上がらされた。腕が抜けそうだ。
目をぱちくりさせている自分の前で、ジョーンズがニカッと笑う。

「忍び込もう!」

それは予想していたどの反応とも違っていた。










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