ゲットイントゥハー 4


ボールを持ったまま固まる。頭の中は回転しすぎて空回り、どう対応すれば正しいか分からない。
えっと、と口から意味のない声がこぼれる。

「え、っと…」
「何でなんだい?ねえ」

じっと見られて言葉につまる。
ダメだ、バレたら困る。あの関係をここで壊すにはあまりに惜しい。

「…アリスとは、その…幼馴染み、なんだ」

何とか出た言葉は予想通り掠れていて自分が情けない。何とかならないものだろうか。
ジョーンズが少し驚いたように目を丸くして「へえ」と言った。

「君はアリスを知ってるの?」
「うん、まあ…。昨日メールしてて、ギャラストの話になったときお前の名前をちらーっと」

全て口からでまかせだ。背中がじっとりと汗ばむ。逃げてしまいたいが、逃げたら余計怪しまれることは嫌と言うほど分かっている。

「アリスってどんな子なんだい?」
「ど、んな子って言われても…」
「俺はメールしかやったことないからさ。ほら、メールとリアルは全然印象違う子とかいるだろ?」

ちょっと本気で泣きたくなってきた。お前は全然印象変わらなかったしリアルのアリスとは今話してるよ。とは、口が裂けても言えない。

その時空気を読んだようにチャイムが鳴った。これで大丈夫だ。次は昼飯だしジョーンズはいつも友人と学食に行くから大丈夫。

ガッシと肩を掴まれる。

「教えるんだぞっ」

語尾に星でも付きそうな明るさと有無を言わせない力を持つその言葉にアーサーはがくりと項垂れた。







教室で着替えるときも席は前後だから自然とその体を観察していた。

(ケンカは…ヤバそうだな)

それなりに引き締まった厚い身体を見たあと自分の身体を見る。腹の筋は入っているが全体を通して頼りない。これは少し、厳しいかもしれない。

やっぱりバラしたらダメだと思いながらネクタイを締めた。それから財布を持ってパンの購買に行こうと一歩踏み出した。すぐに阻まれたが。

「どこ行くんだい?」
「…パン買いに」
「たくさん持ってるからあげるぞ。だから『お座り』」

犬に言うみたいな言い方に偉そうだと思いながら渋々座る。あまり今歯向かうのは得策じゃない。

ドスンと前の席に座ったジョーンズが自分のスポーツバッグから大量のパンを取り出してアーサーの机の上に積み重ねていく。逆に、お前はこれを一人で食べる気だったのかと聞きたい。

「何がいい?」

そう言われて見てみる。メロンパンにチョココロネにカレーパンアンパンリンゴのタルトサンドイッチにカツサンドなどなど。食べれないだろ、こんなに。

「じゃあ、カレーパンとサンドイッチ」
「もっめー!」

もう既に口の中にパンを詰めこんでいるジョーンズがグッと親指を立てる。オッケーと言いたかったらしい。
何でこんなことになってるんだろうと思いながらカレーパンを食べる。まあまあ美味しい。

「そんでさ、アリスはどんな子なんだい?」

飲み込んだジョーンズが興味に目をキラキラさせてこちらを見る。
仕方ないと思いながら考えていたことを言った。

「優しくて」
「ふんふん」
「可愛くて」
「へえ!」
「頭がよくて運動ができて社交的で家族が大好きでウィットに富んでて話上手で、まあつまり最高だ」
「…何か色眼鏡で見てそうな感想だなあ」

パンをもきゅもきゅ食べながらジョーンズが笑う。居心地悪くて誤魔化すようにカツサンドの封を切った。

「お前は?」
「ん?」
「どう思ってるんだよ、アリスのこと」

探るような目で様子を窺うとジョーンズが食べる手を止めてそうだなあと間抜けな声を出した。

「君が言ってるのと半分合ってるかな」
「半分かよ」
「頭はいいと思うよ。それと確かに可愛い感じ。あと、優しい。メールは楽しいし…って何ニヤついてんだい」
「へぇっ!?や、笑ってないぞ?」

何も知らないとは罪なことだと思いながら誤魔化しにパンを詰め込む。ジョーンズがずいっと顔を寄せた。

「な、何」
「ニヤニヤしてるじゃないか。何か可笑しかった?」
「してねーって」
「それとも、エロいことでも考えてたのかい?」

ジョーンズがニヤリとイタズラっぽく笑って言ったその言葉に思わず吹き出した。
ニヤニヤしてたのはアリスをアーサーと知らないジョーンズが可笑しかったからだ。だから仕方ない。

でもダメだ、ジョーンズと俺は仲良くないのに。3日もメールが続くと親近感は否応なしで生まれるらしい。肩を震わせて耐える。

「もう、何が面白いの」

ジョーンズの声に顔を上げる。思ったよりずっと近くに顔があって驚いたが別に怖くはない。

「悪ィ、あの、…思い出し笑いだ」
「エロいことの?」
「違ぇよ、ばか」

笑って顔を離すとジョーンズが唇を尖らせる。それは少し可愛いかもしれない。

「やっぱりメールだけじゃ分かんないかぁ。顔見たら印象変わるかな?」
「顔!?」

それは困る。顔を聞かれてもアリスは写真撮れないぞ。

「ねえ」

ジョーンズが媚びるような声を出す。だから俺にも誰にもアリスは撮れないんだって。

「似顔絵描いてよ」
「…は?」
「似顔絵!ほらっ」

予想外の申し出の後ジョーンズがパンのゴミだらけの机を片付ける。いつの間にやらパンは無くなっていた。恐るべし。
ルーズリーフを取り出したジョーンズがキラキラしながらこちらを見る。分かった、この目に自分は弱い。

「マジかよ…」
「マジだぞ」

シャーペンを持ってうーんと唸る。仕方ない、やるしかないようだ。近くの女を思い描く。

(…エリザベータ、かな)

最近婚約した従姉妹を思い出す。気性は荒いが可愛いからまあ良いだろう。その顔を思い浮かべながらシャーペンを動かす。
しかし覗き込んでいたジョーンズは…失礼にも、呻いた。

「…それは、妖怪かい?」
「人間だばかあ!」

叫ぶとジョーンズが屈託なく笑う。それが年齢に似合わず可愛くて、確かにこいつがモテるのもしょうがないと妙に納得した。








100304
- - - - - - - - - -

top nxt
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -