ゲットイントゥハー 1


【16歳から21歳くらいまでの女の人 お便りください!返事100%!!!高校生大歓迎!!XXXX.XXXX@xxx.comまで。待ってます!!
アルフレッド・F・ジョーンズ】


バカだと思った。
電車の窓のアルミサッシに彫られた、その知りすぎている名前を見てただただ口が閉まらない。バカだバカだとは思っていたが、まさかここまでとは。

これをいつ書いたかは知らないが、きっとメールするような女子は少ない。そう簡単に考え無しに行動はしないはずだ。
つまり返信が来たら飛び上がって喜ぶということにもなる。

「バカめ」

口許がニヤニヤと緩む。
もしその相手が男、しかも同じクラスのアーサーだったなら、ジョーンズは間抜け以外の何ものでもない。







2010/3/1 19:50
To:ジョーンズ
【初めまして】
初めまして、ジョーンズさん。○×高校2年のアリスといいます電車の書き込みを見てメールしました。お返事待ってます。




あまり女とメールをしたことがないから文面はよく分からない。とりあえず絵文字を突っ込んでおこうと適当に送って、ベッドの上に携帯を放った。

アルフレッド・F・ジョーンズは我がクラスのムードメーカーである。
顔はまあまあで性格は陽気、頭も運動神経も良い。要するにモテる。
そういう奴だが、アーサーはジョーンズと話した記憶がない。出席番号が前後で席も前後であるにも関わらずだ。

ジョーンズに対する劣等感が強い自覚はある。だってジョーンズは、例えばその社交性であったり日の光に似た温かさのような、アーサーが手に入れられない物を沢山持っているから。



ふう、と息を吐く。
もしあれがジョーンズの友達のタチの悪い冗談ならどうしよう。あいつは知らないわけだから、突然の女子からのメールに戸惑うだろう。返信もないかもしれない。

(まあ、それはそれでいい)

思い付きで始めたことだ。反応がなくても別にいい。
アーサーは晩ごはんを作ろうとベッドから立ち上がった。返信が来たのはそれから一時間ほど後のことだった。



2010/3/1 21:03
From:ジョーンズ
【Re:初めまして】
初めまして、アリスちゃん知ってると思うけど、俺は△○高校2年のアルフレッド・F・ジョーンズだぞ。アルって呼んで( ̄ー ̄)ノ
アリスちゃんは何て呼べばいい




「……」

驚くほど予想通りの返信だった。動揺していないところからして、あの書き込みはジョーンズ自らが行ったのだろう。やっぱりバカだ。
個人情報だだ漏れだな、と思いながら風呂上がりの髪をガシガシタオルで拭う。

もしアーサーが女の振りをしているとバレたらなかなか恥ずかしいだろう。いつもは一言二言のメールも、『アリス』になりきろうとするとかなり時間がかかった。絵文字を使うのも久しぶりな気がする。

(こいつもそうかもしれない)

1時間も返信にかかったのは文面を考えていたからかも。そう思うとニヤニヤしてしまった。我ながら気味悪い。



2010/3/1 21:20
To:ジョーンズ
【Re:Re:初めまして】
アル君って面白いんだね(笑)私のことはアリスでいいよ。そういえば、私以外からお返事あった??


2010/3/1 21:23
From:ジョーンズ
【Re:Re:Re:初めまして】
なかったよでもアリスがしてくれたから気にしないんだぞ




返ってきた文面を読んでぶるぶると携帯をもつ手が震える。違う手で口を覆った。
これはだめだ。これは、もう。

「っ、ぶ、ははははっ!」

ついに吹き出すと後は簡単なもので、腹を抱えてヒイヒイ笑った。
やっぱり返信はなかったんだ。学校ではあんなにモテモテだというのに!

「ははは、あ、アホだこいつ、お、俺は男なのに…っ!」

お前はからかわれてるんだよとバカにしてやりたい。このアーサー・カークランドにあそばれて笑われているんだと言ってやりたい。
でもそれにはまだ早い。もっと楽しんでからで良いだろう。

久しぶりにこんなに笑う。涙を拭いながらどう返信しようと考えると胸が踊った。ジョーンズの間抜け具合が楽しくてならない。いつかのカミングアウトが今から楽しみだ。


ブルル、と手の中で携帯が震えたのはその時だった。


スッと心臓が冷える。高揚感は去り、もうそんな時間だったのかと思いながら携帯を耳に当てた。

「はい」

流れてくるのは無機質な兄の声。厳格で、肉親への温かみはない。

問題ないな。はい。明日から家を留守にするが、兄達がいない間に入るようなみっともない真似は決してするなよ。はい。我がカークランド家に恥をかかせるような行動は慎め。はい。

ブツリと電話が切られる。さようならを交わすような関係ではない。


両親が死んだ後、家より高校に近いアパートを借りてやろうと兄たちから体よく家から追い出されたのは去年のことだった。もう一人暮らしには慣れたし、兄たちとは昔から仲良くなかったから別にいい。
それでも家からは、出たくなかった。

毎晩かかってくる電話に気持ちがひどく沈む。ジョーンズへの返信も急に億劫になって、携帯を放り出しベッドに身を沈めた。
ぶつ切りしたからもうジョーンズからのメールはこれきりだろう。


慣れたアパートは小さく、アーサーひとりの物で溢れている。
それでもそこに人の暖かさはなくて、心に小さな穴が開いたようにどうしようもない気持ちになった。










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