何時間ぶりの外へと出ると、真っ先に身を刺すような寒さに襲われ、反射的にマフラーに顔を埋めた。いつもよりも一際輝いている街に目をくれることもなく、僕は走り出した。

今日はホワイトクリスマスというやつで、雪が降りはじめるのが遅いライモンシティで今年初めての雪が降っていた。クリスマスに雪なんてロマンチックという言葉を表すのに十分なシチュエーションだと思う。そのせいもあってか、すれ違う人たちは大体男女1セットになって身を寄せ合いながらゆっくりとしたスピードで歩いている。また少し寒くなった。クリスマスだからってどうしてカップルで歩く必要があるんだろう。ゆっくりと歩いくのはいいが、道の真ん中を、僕の邪魔をするかのようにするものだから腹が立った。僕だって急いでる。わざとじゃないけど半場強引に道を空けて商店街へと走った。

僕だってなまえと一緒にいたかった!









もうあたりが真っ暗な外を、窓から眺めていたら白いそれがひらひらと舞い始めてきて冬が始まったと思った。それとこれからもっと寒くなることに少し身震いした。下を見下ろすと、皆コートにマフラーと、厚着をしてもう十分寒いのだと、家の中から思っていた。そういえばクダリも家を出る時にいつも以上に重装備だったことを思い出す。私だって家から出ないわけじゃないけど、朝の天気予報を見るたびに外へ出ようとする足が引っ込んでしまうのだ。

はあ、とため息を一つ吐いてみると窓に白い跡が残って思わず眉間にしわがよったと同時に玄関の扉が開く音が聞こえた。すぐに私はクダリのことで頭がいっぱいになった。「おかえり」と言いながら玄関に向かうと、雪をかぶったクダリが俯いて立っている。いつもの声が聞こえない。明らかになにか様子がおかしかった。
さっき窓から外を見て、鼻も耳も真っ赤にして帰ってくるのはまだわかるけど、それに加えて目を真っ赤にして今にも涙が零れ落ちそうなクダリ。なにがあったんだろうと思うのは自然なことだった。

とりあえず、玄関に立ちっぱなしのクダリを中に入れて鍵をかける。すると、小さな声で「ただいま」と言って肩を落としながら、わたしよりも一回り大きな靴を脱いで私と並んで中に入っていき、暖房のきいたリビングについた途端クダリが私に覆いかぶさってきた。
鼻をすする音が聞こえる。寒くて鼻を垂らしたわけではない。大きなクダリの背中に手をまわして、あやすようにぽんぽんと叩いてやる。するとまるでしゃっくりのような子供泣きをしていた彼の呼吸も落ち着いてきて、ふと愛しさがこみ上げてきた。


「ぐすっ…、ごめん、なまえ―…!」

「なにがよ」

「だって、ううっ」

「泣いてちゃ分からないんだけど」


苦しいくらいの私を抱きしめる腕が緩み、口が開いたと思ったら、また泣き出して困ったものだ。理由はなんとなく分かっているけど、言ってあげない。


「ごめんね、ぐすっごめん…」

「クダリ」

「あのね、お店全部閉まってて」

「いいよ、別に」

「クリスマスプレゼント、買えなかった…」


涙を拭ってやりながら、呟いた言葉を拾った。
私がそれを知って、怒ると思ったのだろうか。クリスマスなのに恋人からプレゼントも貰えないなんてありえない、とか言う女だと思った?私は、こういうどうでもいいことを誤魔化さずに素直に言ってくれるのが嬉しいのだと、彼は理解していない。
一通り言い訳のようなことを吐き出してから、一つ一つに「ごめんね」と言っているみたいに私の顔に軽くキスを落としていった。瞼だったり、頬っぺただったり、唇だったりどれもくすぐったくて少し冷たい。


「別にプレゼントなんていらないよ?」

「うそ」

「嘘じゃない」

「じゃ、プレゼントもらえないなら今日一日一緒に過ごしたいとか思ったでしょ」

「それ出来るの?」

「…むり」

「私はクリスマスとか、どうでもいい。クダリが私のために何かしようと思ってくれたこと自体がうれしいから」


やっぱり私は色んな色に光るイルミネーションよりクダリの笑った顔の方が好きだ。ころころと変わっていく表情に少し呆れながら「今日のご飯、七面鳥だからね」と言ってあげると、子供のように喜んでくれる。
クダリはコートを脱いで、私は料理をテーブルに並べて席について、なんらいつもと変わらない一日だった。




おおきな子供



「…なまえって、こういうイベントに冷めてるよね」

「だめ?」

「ううん!なまえ大好き!」


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