(すごくみじかい)



いいにおい。
人間は人を好きになるとき、容姿でも性格でもなく、その人の匂いに惹かれるものらしい。匂いっていうかフェロモン?それは人によって全然違うから、それで好きな人嫌いな人っていうのが分かれるらしいということをどこかで誰かから聞いたのを何故か鮮明に覚えていた。
でも、思えば思うほど納得する話で、それでいて興味深い話だと思った。たしかに、今僕の腕の中で眠るなまえの匂いは確かに僕にとって最高に好きな匂いだと思う。香水のように鼻を突き刺すような匂いでもなく、僕と同じシャンプーとボディソープの匂い。優しい匂いが混ざり合って僕はそれに顔を埋めると、すごく幸せな気持ちになる。僕と全く同じ匂いなはずなのに、そんな風になっているのは、きっとその中になまえの匂いも混ざっているからだろう。それにお布団の中だと二割増しに幸せで、すりすりと何度も鼻を擦り合わせ、十分にそれを堪能して僕の口端は自然と上がっていく。

「ん…んん」

一緒にベットの中に入って大分経ってしまっていたから、なまえはとうに眠ってしまったのかと思ったけれど、もぞもぞと僕の腕を退けて布団の中に冷たい空気が入り込んできた。そして、体を起こしてベットから出て行こうとしていた。たった今まで幸せな気持ちでいたのに、半減した。

「なまえ、…どこいくの」

「ん、ちょっと、トイレ」

「すぐ戻ってくる?」

「そんなの当たり前だよ」

くすりと笑って、スリッパをはいてぱたぱたと出て行ってしまったなまえを寝ぼけ眼で見送った。
今日はもう、腕の中になまえがいないと眠れなさそうだ。ぬくぬくとしたお布団は僕だけの温もりだけで足りないと思ってしまうし、何より柔らかくてなまえのいい匂いを鼻いっぱいに感じなければ眠れそうにないと思った。本当は毎日そうしたいところだけど、僕には夜勤というやっかいなものがあって、それもかなわない。でも、毎日感じられないからこそ恋しく思うというものだろう。まあ、でも結局のところ僕はなまえならなんだってかまわないんだけどね。

なまえを待っている間だんだんと目も闇の暗さに慣れて、ぼんやりと部屋の形が見えてきた。なまえまだかな。そんなに経っていないはずなのに、待っている時間がとてつもなく長く感じる。今日も仕事でほとほと疲れていた僕は、なまえがいないと眠れないといってもその疲労のせいで瞼が重くて重くてしょうがなかった。もうだめだと思って閉じてしまうと、なまえがちょうどよく帰ってきて布団がまた暖かくなる。
ただ僕はもうなまえにおかえりと言う口が開かなかった。

「おやすみ」

だけど、なまえが完全にベットに入ったと思ったら僕のおでこと唇に可愛くキスをして満足そうに笑った。目を閉じたって分かる。それから出ていく前に僕がしていたみたいになまえからぎゅうううっと抱きしめてきてくれて、僕はまた幸せな気持ちになって、くすぐったい気持ちになった。



不公平な夜
(なまえ、ずるい…また襲いたくなる)
(え、うそ…やめ、)
(目冴えてきた)



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