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好きな女の弱っている所につけ込む三途

「なに言ってんだテメェはよぉ」
「だーかーら!私の良いとこ10個教えてってば!」

今日の私は散々だった。
営業職ならではのノルマ達成が月末になっても達成出来ず上司に叱られ、それを見ていたいつもお菓子ばかり食べているお局に小言を言われ、お昼になると大事なお弁当を忘れていたことに気付き、午後は私が受け持っていた取引先との件が白紙になってしまった。今日の良い事と言ったら明日は仕事が休みだということくらいだ。こんな日は飲まなければやってられないと10代の頃から仲が良い春千夜を誘ってこうして飲みに来ていた。

「今私は豆腐メンタルなんですー。だから良いとこ教えて!そんで私のモチベを上げて!」
「ケッ、くだらねぇ事で呼びやがって。俺を何だと思ってんだよ」
「三途様です〜。お願い、友を助けて」

春千夜が来る一時間前からこうしてヤケ酒を始めていた私は幾分か既に頭にアルコールが回り出来上がっていた。駄々をこねる私に春千夜は面倒くさそうにビールのジョッキを持ちながら眉を顰めている。

「ンなクソな会社とっとと辞めりゃいいだろーが。なんなら燃やしちまうか?」
「春千夜が言うと冗談に聞こえないんだけど。さっさと辞めれたら苦労してないもん」
「んじゃ我慢しかねェな」
「我慢するから褒めて欲しいんだよぉ」

ムゥっと頬を膨らますように拗ねて見ると「テメェそんなキャラじゃねぇだろ」と言われたので、私は直ぐにいつもの顔に戻せば春千夜はケラケラ笑っていた。
春千夜なら素の自分を見せられるから、女の子らしさ皆無を承知で私は半分くらい残っていたビールを一気に飲み干す。きっと明日の私はベッドから起き上がれず二日酔いに苦しんでいるのだろう。そんな私を見て春千夜は大きなため息を吐いた。

「はあ……まず酒癖ワリィ」
「ハ?」
「一回寝たら中々起きねェし、支度する時間が長ェ。飯食い行くとンな食えねぇクセに無駄に料理頼む」
「ハ?ハ?」
「それと昔の男に未練タラタラ」
「ちょっとちょっと待てーい!」

枝豆をほおりこみながら言う春千夜に両手で口を制する。

「全部…それ…悪口って言うんですよ。ご飯は謝ります、すいやせん…ちなみに昔の男未練タラタラって…それ中学の淡い思い出話しただけじゃん」
「ハン、なまえから言って来たんだろうが。最後まで聞けや、あー今いくつ言った?あン?三?四?」
「…もう聞きたくない。お腹いっぱい」

酒癖悪いの今日だけだし。多分。
寝たら起きないのは春千夜が眠いなら寝ちまえって言うからだし、支度が長いのは春千夜が誘ってくるのはいつも本当に急だから時間に間に合わないんだもん。ご飯だって、春千夜が好きなもの頼んで食えとか私を甘やかすからいっぱい頼んじゃうんだもん。
ちょびっとだけ涙が目に滲むと春千夜はククッと笑う。春千夜に私の良い所知りたいだなんて聞いたのが間違いだったんだと、少しの後悔が生じた。

「他の野郎の話するお前は可愛くねェけど、それ以外のお前は可愛いもんだワ」
「…………え?」
「ナニ?もっと聞きてェの?」

伏し目がちに春千夜からテーブルへと向けられていた私の顔はくるっと春千夜へ反射的に向けられる。にまにまと笑っている春千夜と正反対に私の顔はひどく驚いて滲み出ていた涙は引っ込んでいった。

「行きたくねェ仕事毎日頑張ってっし、俺と会うときの服も全部俺好みだし。飯食ってるときの顔、アレ結構好きだワ」
「まって!ギブギブ!」

私は本日二度目の綺麗なお顔の春千夜の口を制す。酒とは別に頬が熱を上げていくのを感じて、春千夜はそんな私を見て満足気に私の手をどけてビールに口をつける。

「春千夜が春千夜じゃない!」
「はぁ?俺は俺だわ。良いとこ言えってなまえが言ったんだろうがよ」
「そっそれはそうだけど、もうダメ。ありがとう、恥ずかしくて死んじゃいそう…」

とても普段の春千夜の口から出るような言葉ではないセリフに心臓の音が加速していった。こんな日にそんなことを言われたら落ちていってしまいそうになるではないか。

「わたし、春千夜の事好きになっちゃいそうなんですけど、どうしよう…」
「いーじゃん。ソコ狙ってたんだワ」
「はい??」



「オレはオメーがずっと前から好きだったての」



20211112
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