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白豹の彼の一番になれないA

喧嘩なんかしたあと疲れている筈の体は未だ興奮が収まらず、そんなとき程会いたいと思える女はなまえだった。バイクに跨って風を切り走ることでもいくらか頭の熱は冷めるのだが、それとは別の感覚。会う度にふにゃっとした顔つきを俺に見せて、俺の為に毎回わざわざ化粧してくんの、癒されると同時に可愛すぎて滅茶苦茶にしてやりたくもなる。なまえは少し他の女よりも遠慮がち。もうちょい自分に自信を持っても良いんじゃねぇかって思う。持って来たバッグを毎回必ず部屋の隅に置くような女で、俺からいつも一歩後ろに下がっている感じ。それが俺的には納得がいかなくてこの距離を何とかして縮めたくなった。

俺ってなまえが好きなのかって自覚したとき、恨まれることは承知で自分が連絡を取っていた女は全て切った。置いてあった女達の私物は躊躇無く捨てたし、泣きじゃくった女もいたがそれに対して俺の心を揺さぶるなんてことは全く無かった。それくらい他の女がどうでもいいと思えたし、なまえを俺のモノにしたいという感情が大きかったからだ。

だから今日、俺はなまえに彼女になってと伝える筈だった。例え振られても諦めないという覚悟で。本当は会ってすぐに伝える予定だったのに、なまえの顔を見たらガキくせぇけど先に口より体が動いてしまった。どういった感情なのかなまえは最中に涙を薄く瞳に溜めながら俺の名前呼ぶから、それが本当に愛くるしく堪んなくなって無理をさせてしまったと思う。事後の後に眠ってしまった彼女の頭を撫でながら、起きたら速攻で気持ちを伝えようと思ったのが俺にとっての過誤だった。

「あ……ワ、ワカ君、ごめんっ!!」
「あっおいっ!」

起きたら横にいるはずの彼女は泣いていて俺の家から出て行った。俺の脳内は一瞬で冷めていき、何度電話を掛けても繋がらない。

「ちっ」

乾いた舌打ちが部屋に響き、彼女にメールを打つ。しかし何分待ってもなまえから返事が返ってくることは無かった。終わったとも思ったが、やっぱり何も行動を起こさず消滅だなんてのは性にあわない。せめて泣いていた理由を聞くまでは諦めきれる筈がない。会ってくれないのなら会いに行くしかねぇだろと俺は部屋を出たのだ。

外は雨が降っていて、濡れるのなんかも気にせず彼女の家まで向かう。彼女の家に着き、居るか居ないのかも分からないが携帯を取り出し彼女の連絡帳を開く。冷たくなった指先でもう一度電話マークをそっと押した。

プルルルと呼出音が鳴ると同時に甲高い着信音が俺の背後から耳に届く。は?と思い聞こえた先へと振り返ると、なまえが俺の方を驚いたよう表情を浮かべて立っていた。

「なまえ?」
「ワ、ワカ君?なんで…ここに?」
「何でって」

言葉の続きを口にしようとした瞬間。彼女は眉を下げ一瞬泣きそうな顔になったかと思うと俺から背を向け走り出そうとした。

「っおい!待てって」

走り出そうとした彼女の腕を引き止めると、なまえの肩は跳ね足が止まる。

「…何で俺から逃げんの?電話もメールも返って来ねぇし。泣いてた理由知りたいんだけど」
「そ、れは…」

此方を振り向かず言葉に詰まるなまえの掴んだ腕が微かに震えているのが分かる。中々口を開こうとしないなまえに俺は腕を引き彼女を自分の方へと振り向かせた。

「なぁ教えて?」
「あ、ぁうっ」
「…俺のこと嫌いになった?」

顔を俯かせぷるぷると首を左右に振る彼女に、嫌われた訳では無いと分かると少しだけ安堵する。なまえはあいたもう片方の手で自分の涙を拭うと小さな声で言った。

「…たの」
「ん?」
「好きになっちゃったの。…ワカ君のこと」
「………は?」

泣きながら言うその言葉は正しく俺が伝えようとしていた言葉であり、つい間抜けな声が出てしまった。それでも彼女は泣き止む所か更に泣きじゃくりながら力なく言葉を続ける。

「せ、セフレなのに、ゴメンね。っ他にも女の子いるのに、…ワカ君の事好きになっちゃった」
「何で謝んの?」
「わっ」

掴んでいた腕を自分の方へと引きなまえを抱き寄せる。すっぽりと俺の腕に収まる彼女の体は冷たい。雨の中外にいたからであろう。抱き締めたことにびっくりしたのかなまえは心做しか挙動が慌ただしかった。

「セフレじゃねぇよ。とっくに俺はお前が好きだから」
「……え?」
「お前が好きって気付いてから女は全部切ったし、今日だってお前に好きって伝える筈だったから」
「ん?…はっ?えっ?ワカ君、え?」

コイツきっと俺に振られると思ってたんだろうなーって見てすぐ分かる顔つきに、ついプッと笑ってしまった。赤くなった彼女の目をなぞる様に優しく涙を拭い、頬にそっと手を当てると俺の手が冷たかったのかなまえはピクリと反応する。

「不安にさせて悪い。白豹の俺はお前にくれてやるから、お前も俺だけの女になってくんね?」
「……ほ、本当に私でいいの?ワカ君の一番にしてくれるの?」
「俺の一番はお前しかいないけど?」

そのまま唇を重ね、顔を離せばなまえは俺の背に手を回し力を込めた。まずは彼女が次家に来たとき、バッグを隅に置かせないところから始めようと思うとこれからの未来に笑みがこぼれた。



20211031
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