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※梵天軸


「ね〜どっかにいい男落ちてない?」
「あン?目の前にいんだろが」

私は今友人の三途春千夜と食事がてらこうして酒を酌み交わしていた。たまにこうしてこの男と会うのだが、お互いを男女として見ていない仲で気を許して話せる数少ない私の友人だ。この男は常人とは少々程遠くクレイジーな思考を持っていて変わっている所も多々あるのだが、それを抜かせば良い男だし話しやすい。

「あー顔だけは良いよね。ってかアンタ彼女居たじゃん。すっごいおっぱい大きい人」
「おい、顔だけとは何だてめぇ聞き捨てならねぇなぁ。あの女とは別れたワ。とっくに」
「まじ!?なんでよ?」

店員がおかわりのビールを持ってきて、私は空いたジョッキを渡しながら新しいジョッキに口付ける。夏の仕事終わりのビールは本当に最高だ。美味しすぎてグヒグビいけてしまう。

「俺と会えなすぎて辛いんだとォ。ンなこと知るかよこっちは忙し〜い仕事の合間ぬって会ってたってのによ。だからこっちからサヨナラしてやったわ」
「あー。まぁ休日も不定期だし仕事も仕事だもんねぇ」
「おっぱいだけは最高だった」
「サイテー」

この三途春千夜、見た目が色男なせいか女が途切れる事は無い。だが長続きはしない。理由は仕事が仕事なせいで人に言えない職業という訳ありの為、女に仕事と私どっちが大事なの!?と喧嘩に発展する事が多いようだ。今回もそのパターンらしい。

「つかおめェも居たろ。あー…確か金融機関のエリートサラリーマン…だっけかァ?」
「…とっくに別れた」
「ギャハハ!お前もかよウケんな」
「いやウケないし」

ビール片手に此方に指差し大笑いする春千夜に私はキッと睨みつけたが、私が睨んだ所で彼は動じず笑い続ける。
春千夜の事をああも言ったが自分も自分で付き合った彼氏とは長続きしない性分だ。悲しいがな。

「でぇ?お前は何で別れたの?」
「んー、会う度ホテル直行が多かったから?お前あたしの体目当てかいなって。顔も悪く無かったしお金持ちだったんだけどなぁ」
「男はともかくお前サイテーだな」
「男も最低だろ!てか春千夜に言われたく無いし!」

お互いをこうして侮辱し合えるのも長い付き合いが物語っているから言える訳で。春千夜は私の事をよく知っていて、私もまた春千夜の事なら大体の事を理解しているつもりだ。多分、向こうもそう思っていると思う。私はつまみに頼んだ串揚げを口へ運びながら春千夜に問う。

「熱っ!じゃあさ、前に一回会ったことある蘭って名前の人居たじゃん?あの人紹介してよ。かっこいいし」
「あ?らん?ダメダメ。あいつ特定の奴作らねぇしお前なんざ遊ばれて直ぐポイだろ」
「マジ?じゃああの弟は?」
「無理無理、見る目ねぇなお前。つか誰でもいーんかよ、ビッチな女ぁ」
「ビッチじゃないから!」

なんて失礼な言葉をレディに向かってこの男は平然と言えるのだろうか。言った相手が私で良かったな。他の女なら張り手食らわされている所だぞ。そう思いながら頬を膨らまし否定してみても春千夜は私を見もせず二本目の串揚げを頬張っている。

「ちぇー。んじゃ聞くけど春千夜はどんな女がタイプなの?」
「おれぇ?あー…タイプっつーよりも先ずは仕事の件に口出ししねェ女」
「ワォ!じゃあ私じゃん。春千夜の仕事の事は知ってるし煩く聞かないし」
「バーカ自惚れてんじゃねぇよ。そーゆうてめぇはどうなんだよ」

私?私はどうなんだろうか。
揚げたての串揚げを何とか食べ終わり、串を指で摘みくるくると回しながら考えた。優しくて〜とか落ち着けて〜とかは散々聞かれて答えた事はあるが、本音はどうだろうか。

「ん〜ぶっちゃけタイプ云々よりも恋人を作るまでの過程がめんどくさい…かな」

また出会いの場から探してやっと良さそうな人見つけたと思っても、その人の事を一からまた知って恋愛をしなければならないのが面倒臭く最近は感じてしまうようになった。恋人は欲しいと思うのになんて矛盾した考えなのだろうと自分でも思ってしまうけれど。

「あー分かるワ」
「あ、分かってくれるんだ」

春千夜は食べ終えた串を串入れに入れビールをグイッと飲み干し、店員に再度おかわりを注文する。

「中々会えなくても我慢します春千夜君の一番になりたいです!とかなんとか初めは言うクセに、付き合やぁもっと時間作れやら仕事減らせやらなんやら口煩くしてよォ。アレをまた繰り返すかと思うと俺様人間不信になんワ」
「人間不信とか貴方が言いますか」

まぁ春千夜の彼女だった子達の気持ちが分からなくも無いが。不憫だなぁ。だがどうしたっても春千夜は女より仕事を取る男であろう。王が何より大事だって前にも聞いた事があるし。しかし中々居ないだろう、そんな従順な女は。やっぱり彼女になるからにはその人の一番になりたいと思うだろうし、寂しい思いも出来るならしたくはない。私はそんな事を思いながらビールをまた口にする。

「ン、じゃあさぁ」
「何?」
「俺にしとく??」
「はい??今何と?」

この三途春千夜。ほんっとこういう所ある。
冗談なのか冗談では無いのかマジで分からないとき、ある。
しかも何故か余裕そうにテーブルに肘ついて顎に手をやる辺り、なんか私がオッケーするだろうという風に自信ありげにしているんだが。

「冗談ですよね?酔っ払ってしまったかな?」
「は?酔っ払ってねぇし冗談でもねぇけど」

ンンンン!正直な話、今まで春千夜の事は男として見た事が一度も無かったし、彼も私を女としては見ていないと思っていた私は今正しく今年一番の動揺を隠しきれていない。

「お前恋愛の過程がめんどいんだろ?だったら俺で良くねぇ?俺お前の事分かってるし、お前は俺の仕事の事分かってんじゃん。しかもお互いフリーだし丁度良くね?」
「そりゃ、そうかもだけど…」

いくらお互いの事を知っているからとはいえ、こんな簡単に決めてしまっても良いのだろうか。…恋愛すらよく分からなくなってきた。

「でもさ、別れた後とか気まず過ぎて友達に戻れないじゃん?それはちょっと嫌かなと思いまして」
「あん?別に別れなきゃいー話だろうが。そこらのゲス男より顔もいーし金もあるしぃ?別れる要素ねぇだろ」
「ソレ、自分で言っちゃう?」

私は春千夜に引きつった顔を少々浮かべる。確かに別れなければ済む話だろうがこればかりは分からない未来だ。でもまぁそれはどの人と付き合ったってそうなる訳で。だったら春千夜と付き合ってみてもいいのかな?なんて気持ちが頭の中を過ぎり出す。

「春千夜は私のこと抱けるの?」
「唐突に言ってくんのな。流石ビッチ」
「ビッチちゃうわ!私は好きな人としかしませんー!そうじゃなくて今まで友達だった訳じゃん?それでもさぁ…そのぅ」

流石に勃つのかって話題を男の前でするのにはいくら春千夜でも抵抗があって、吃ってしまうと春千夜は口角をニヤァッと上げて不敵な笑みを見せた。

「勃つ勃たねぇかは試してみるしかねぇよなァ」

そう言うと彼は早々に店員を呼び出しチェックをする。

「あ!ちょっとまだ話の続きしてるじゃん!」
「あ?善は急げって言うだろォが。さっさと試そうぜ」

さっさと試すとは多分春千夜的にセックスの事を指している訳だろうが…。楽しそうに笑う春千夜に対して私は脳内で理解がまだ追い付いていかず、その場に固まってしまう。そんな私を他所に春千夜は伝票を受け取り席を立った。

「あ…待ってよ!私も払うから!いくら?」
「あー、いーいい。俺が払うからいらねぇ」
「そりゃ流石に悪いって」

ハッとして私が財布をバックから取り出した瞬間、春千夜は私の財布を持つ手を引き、出した財布を私のバッグへと戻した。

「俺、"彼女"には金出させねぇ主義なの。黙って奢られとけよ」
「なんと!?」

ヤバい。春千夜が言う"彼女"という言葉に私は不覚にも心臓がぎゅうんとときめいてしまった。店員から渡された伝票を持って会計へと進む彼の後ろ姿に私は心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

「ちょっと春千夜の癖に顔以外にもかっこいいんですけど。ってか紳士じゃん知らなかった…」
「オゥオゥ俺かっこいいからなァ。つか顔以外って何だよバカ女」
「バカは余計だし!」

会計をカードでスマートに済ました春千夜と私は店の外へ出る。夏場ということもあり、気温は夜でも高くてむわっとした夏特有の空気が私達を包み込んだ。

「さて、と。先ずはタクシー拾うまで手でも繋ぐかァ?」
「手!?」
「付き合ってんならそんくらいすんじゃねーの?俺はあんまり好きじゃねぇけど」

好きじゃないと言いながらも自然に差し出された手に私はそれを受け取れば「やけに素直じゃねぇの」と言いながら春千夜は私の手を握った。その繋いだ手の感触にまた更に胸が脈打ち出す。

「なんか、なんか春千夜の癖にドキドキするんだけどどういう事!?」
「あ?意識してんの?ハン、単純だなお前。可愛いトコもあんじゃん」

ヘラヘラと笑いながら私の手を繋ぐ春千夜に私は何も言い返せずにいた。どうにも私は春千夜の言う通り単純な思考の持ち主で、悔しいが春千夜を先程から意識しっぱなしの様だ。顔を赤らめる私のその様に春千夜は妖しく笑って言った。

「存分満足させてやっからこれからながァく宜しくなぁなまえちゃん?」


その言葉に、私は黙って頷くしか無かった。
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