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「ずっと先輩の事好きで、良かったら付き合って欲しいンすけど…」

千冬君からそう言われたのはもう数ヶ月前。
告白のベタとも言える屋上に呼び出され、顔を真っ赤に染めてそう伝える彼に私はうんと頷く事しか出来なかった。その返事に彼は「っしゃあ〜」とびっくりするぐらいの大きな声を出してついつい笑ってしまったのを今でも鮮明に覚えている。

彼は私の一個下で松野千冬と言う。ウチの学校の中じゃ中々の有名な不良で話した事は無いけれど彼の事を知ってはいた。まさか自分が年下の不良と付き合う事になるとは思っても見なかった。

私の完全なる偏見で、東京卍會の一番隊の副隊長と聞いていたから喧嘩の現場に連れて行かれるとか、強引に何かを迫られるとか想像して怖気付いていた部分があったけど、全然そう言うのは無くて寧ろ字は綺麗だし、嫌がる事もさせないし、優しくて至って普通の男の子だった。千冬君ごめんね。彼の事をそうやってよく知っていく内に千冬君の事が気付いたら好きになっていた。

「今日は何処行く?」
「今日はね、プリクラ撮りたいの!それでね、あのゲーセンの近くにカフェが出来たからそこのパンケーキを食べてね時間あったら映画見たい!」
「オッケ!じゃあそれ全部やろうぜ」

いつもは私の部活が毎週あるのと千冬君の予定が合わさって中々一日時間が取れる事が少なかったけれど、今日は久々にお互いオフという事で朝からデートだ。私はこの日が待ち遠しくて明け方まで眠れなかったなんて彼は知らないだろう。

付き合って3ヶ月程立てば、どっちが年上か分からない程に私は千冬君に甘えてしまっていた。意外な自分の素顔に数ヶ月前の私なら考えもしなかったろう。それでも千冬君は私の我儘に嫌な顔一つせず、いつもこうして私のやりたい事を叶えてくれるのだ。

プリクラ機に入ればいつもよりちょっと近い距離に胸が高鳴って、BGMの音が大きくて助かったのが正直な所。

「俺やりたい奴あるンだけど」
「いいよ〜!どんなポーズ?」
『キメ顔でいくよ♪3・2・1』
「あっ!」

プリクラ機のナレーターの声に合わせて千冬君は私の腕を引いた。撮れたのは咄嗟のことで驚いている私と狙っていた千冬君とのキスのプリクラだった。

「もぉ〜!私変な顔してるし」
「ハハッ、悪ぃ。ずっと撮って見たくてさ。ごめんな?」
「…別にいいけどさ」

急なキスに驚いてちょっと怒ってみれば千冬君は軽く手を合わせ謝罪する。
恥ずかしくてぶすくれて見たけれど本当は内心私も嬉しくて、現像されたプリクラをそっと撫でながらカバンの内ポケットにしまった。

「千冬君はどれにする?」
「イチゴも美味そうだけどチョコも捨て難ぇ」

メニューに並ぶパンケーキの種類に目を輝かせる千冬君は可愛くて私の中の母性本能とも言えるであろう感情がきゅんと心に響く。

「じゃあ私はイチゴにするから千冬君チョコでどう?シェアしようよ」
「マジ?いいの?賛成」

私は彼と会う度に好きを見つけていく。こうやって素直な所とか、学校の帰り道に恥ずかしそうに手を繋ぐところだとか、そうかと思ったらさっきのプリクラみたいに少し大胆な所とか。全部含めて松野千冬という彼が大好きだった。

「んまかったぁ」
「うん!また来たいねここ」

流石人気のカフェ。混雑時で少し待ったがその甲斐あった。パンケーキは口に入れるとふわっととろけて、イチゴは瑞々しくて、チョコは甘すぎず苦すぎずでどっちも頬っぺが落ちる程美味しかった。

「なまえ食べるの早すぎだし」
「う!そういう千冬君こそ!ってかシェアにして良かったね」
「それな!うしっ次は映画だっけ?行こうぜ」

そう言うと千冬君は席を立ち伝票を持って行った。

「あ!私払うよ!」
「いや、いーよ」
「ダメだよさっきプリも払ってもらったし」
「ん、今日は久々のデートじゃん?だからたまにはこれぐらいかっこつけさせてよ」
「…ありがとう、ございます」
「良し、良い子」

申し訳なくなりお礼を伝えれば千冬君はシシっと笑い、私の頭に伝票をポンと当て彼は早々に会計を済ます。本当こういう所、どっちが年上か分からない。私が毎度こういう何気無い事にドキドキしまくってるって千冬君は知らないんだろうな。

カフェを出て私は千冬君にもう一度お礼を言い、千冬君の大きな手を取り繋いだ。それに千冬君は「珍しい」と少しだけ顔を赤らめて私の手をギュっと握るのだ。

「えーと、次は映画だったよな」
「うん。この間面白そうって言ってたの公開したから」

prrrr
電話が鳴ったのは私ではなく千冬君の携帯で、私達は歩みを止め電話に出る。

「うっす。はい!お疲れ様です。…今からスか?…はい、はい、分かりました。行きます」

千冬君の電話の応対に私は嫌な予感がしたがそれは的中した。電話を切った千冬君は申し訳な無さそうに私に告げる。

「悪い。ちょっと緊急の集会開く事になっちまったみたいで」
「…そっか。大丈夫だよ」

私は君より一つ上の先輩なのだ。そりゃ急なデート中断に凄まじくショックは受けているけれど理解しなくてはならない。千冬君にとってチームはとても大事な物だから私も千冬君を笑顔で送り出さないといけないのに。と心では思ってはいてもいつもは学校のお昼休みとかに会ったり、私の部活終わりにちょこっと会う程度で、外に二人で出掛けるのなんて初めてのデートから数回目だったから中々笑顔を作る事が出来なかった。

「本当にごめん。そんな顔しないで」
「え、あ、違くて、ごめっ、私は良いから行ってきて」

私の表情に千冬君は眉を下げ少し困ったような顔をする。それに私は涙腺が緩み千冬君にそれがバレぬよう笑顔を取り繕った。しかし、千冬君は怒るわけでも無く周りの人目を気にぜず抱き締めたのだ。

「え!ちょっ千冬君!?」
「はぁ〜。そういう顔は狡いって。…俺だって楽しみにしてたんスよ今日」
「ごめんね。困らせたくは無かったんだけど」
「違う違う。そうじゃなくてさ。…可愛すぎって事デス」

千冬君から可愛いと言われた事に私は咄嗟に千冬君の顔を見ようと顔を上げれば手で頭を阻止された。千冬君の香水がフワリと香って私はなすがままになる。

「今顔見られたら恥ずくて俺死ぬ」
「見たいよ千冬君」
「ダメ。まじで恥ずいから」
「…さっきはキスした癖に」

ポソッと声を漏らせば千冬君はガバッと抱き締めていた腕を離し私から背を背けた。

「千冬君…顔真っ赤」
「っ!」

背けた彼の顔を覗き込めば真っ赤に染まっていて、それがとても可愛くて一つの意地悪を思いつく。

「じゃあデートが急に中断という事で私に大好きって言ってくれたら許してあげる」
「は!?今!?ここで!?」
「さっきこんな所で抱き締めたんだからそれよりはいいでしょ?」
「あれはついって言うかなんて言うか」

彼はきっと咄嗟の行動に後悔しているのだろう。私の悪戯めいた言動にあたふたしている千冬君が面白くて可愛くて私は笑いを漏らす。

「…じゃあ多分夕方過ぎには集会終わると思うんだけど、なまえ暇?」
「うん。今日は予定無いけど、何で?」

千冬君は私の返答を聞くとすぅっと息を深く吸い込んで息を飲んだ。

「じゃあ終わったら迎え行くから待ってて。俺だってオトコノコなんで。家についたらいっぱい言ってやりますよ」
「そ、それって」

今度は逆に紅潮していく私の顔に千冬君は満足気にニヤりと笑う。

「俺から連絡来るまで待っててよセンパイ?」

ベッと軽く舌を出した千冬君に、軽い悪戯が悪戯し返されてしまった私は、彼の言葉の意味を理解すると黙っているしか無かった。
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