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<ネームレス>


「かわいい〜!ねぇ!彼女いるの!?」
「いっいや、いないっス」

まるでナンパしている男のようにずいずいと迫られ引き気味の彼は、松野千冬君というらしい。圭介が会わせたい奴が居るとか言うからちょっと緊張していたんだけど、何なんだこの可愛い小動物は!

「絶対モテるじゃん!圭介こんな子どこで知り合ったの?」
「あぁ?クラス一緒なんだよ。ってかお前近すぎ。千冬引いてんだろぉ」
「あはは…大丈夫っす」

圭介に猫のように首根っこを捕まれ私は元の定位置に戻る。若干安心した様に苦笑いを浮かべる千冬君は一番隊の副隊長らしい。可愛い顔して喧嘩も強いのか。しかもかなり圭介にゾッコンとみた。これまた圭介の彼女として嬉しかった。
千冬君は圭介の話になるとまるでどっちが彼女?とでもいうようにキラキラ輝いた瞳で話を聞かせてくれる。それが小動物みたいで圭介が可愛がるのも分かる気がした。こんな崇拝してくれる人なんて中々人生で出会わないだろう。そう思うと嬉しくて仕方なかったのだ。

そこから会話は弾み、圭介が途中で「俺の話はもういいだろ!」とか「お前ら他に話題ねぇのかよ!?」とか言ってたけれど千冬君と私は圭介の話で盛り上がってしまった。

「あっ、もうこんな時間すね。俺帰ります」
「お〜。またなぁ」
「はい!また明日学校で。彼女さんもまた」
「うん!ありがとう。またね」

笑顔で見送り、パタンと玄関のドアが閉まると先程まで騒いでいた空間が静まりかえった。

「あの子、いい子だね」
「…あったりまえだろぉが」

ズカズカと音を立てて自分の部屋へと戻る圭介に私も後ろから着いていく。いつの間にかもう外は太陽が傾いて夜と言われる時間に差し掛かる頃だった。今日は良い出会いに感謝だ。圭介の事を慕ってくれるあんな良い子がいるなんて。私は彼女として気分が高揚していた。

「千冬君、今度アド聞いておこっかな。またお話したいし」
「あぁ!?んなの聞く必要ねぇだろ!」
「えぇ〜いいじゃんか。何怒ってるの?」
「怒ってねぇし!」

目線を合わせずそっぽを向く圭介に私は近寄り顔色を伺う。明らかに怒っているように感じる声のトーンに、圭介には悪いがニヤついてしまったのを彼は見逃さなかった。

「テメェ、何笑ってやがんだ」
「フフ、もしかして圭介…さてはヤキモ」
「はぁ!?どこをっどうみたらそうなんだよ!」
「そうやってあたふたしてる所」
「くっ、ちっげぇよ!」

図星だったようで圭介は私を睨みつけた。でもごめん。全然怖くないや。圭介自体私に対してヤキモチ妬いてくれることって今まで余りなかったし、千冬君には悪いけれど感謝してしまう。
納得いかないかのように不貞腐れた圭介の顔は、普段中々見ることのない顔だ。それがまた私は嬉しくてついつい頬が緩んでしまう。

「お前、ニヤニヤ気持ち悪ぃんだよ」
「だって嬉しくてさ」

私はそっぽを向く圭介の背中をぎゅっと抱き締めた。自分より広くて大きなこの背中は落ち着けて私は大好きなのだ。

「でも本当に千冬君は圭介の事好きなんだね」
「もう…いいだろぉ」
「恥ずかしがる事なんかないって!」
「違ぇっつの!」

がばっと圭介は私の腕を振り解き、私の肩を掴む。強めの力で掴まれた肩は身動きが取れない。ちょっとからかいすぎたかもと私の体に冷や汗がつらーっと伝った。

「…お前さぁ。…俺の女って自覚あんのかよ」
「へ?」

圭介はため息混じりに自分の長い髪をかきあげると、私の目を真っ直ぐ見つめながら言った。

「千冬とくっつき過ぎ。顔近すぎ。俺居んのに二人で話過ぎ」

それだけ言うとフンと鼻を鳴らしながらそっぽを向いた。私の目に映る圭介はどこからどう見ても顔も耳も真っ赤で私の心臓はどっくんと脈打つと同時にやっぱり口がニヤケてしまう。でもこれは圭介の本音が聞けたのが嬉しくてだ。

「まぁたニヤつきやがって!だから言うの嫌だったんだよ」
「だって嬉しいんだもん。ってかほぼ圭介の話じゃん」
「それでもだわぁ。目の前で自分の女が別の男と仲良く話してんのつまんねぇんだよ」

そう言うと圭介は私の髪をクシャクシャっと撫で回した。私達はお互いを見やった後、圭介が私を抱きながらそおっとソファに沈めた。圭介が今度はニヤリと笑い私に告げるのだ。

「お前、俺に愛される気ある?」
「あいっ愛される?!」
「ハッ。拒否権ねーけどな」

圭介の指先が器用に私の制服のボタンを外していく。
普段ならこんな事滅多に言わない彼なのに、今日の圭介は何時になく大胆だ。ヤキモチは恥ずかしくてこういうセリフは恥ずかしく無いのだろうか。そんな事を考えていればいつの間にか首筋が露わになり、彼はにいっと犬歯を見せ吸い付き噛み付いてきた。

「いっ、あっ」

ちゅうっと甘美な音を合図に私は彼に呑まれていく。独占欲の印とも言えるそれに気付くのは数時間後の話。
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