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マイキーに告白したい。もう我慢の限界だ。しかし本人目の前にすると言えないのだ。気持ちはもう随分と前から固まっているのに言葉にするのが難しい。たった二文字「好き」を伝えるのがこんなにも難題だとは。

彼はモテる。本人全然気にしてないけどめっちゃモテる。私は何人彼へのキューピッド役に応じただろうか。その都度私も大好きなんだが!私の方がマイキーの事知っているんだが!とか独占欲の塊が私の心を支配して彼女達に申し訳なくもなり、振られていく彼女達を見て内心かなり安心している様などす黒い女だ。

だからこそ、私はマイキーに好きだと伝えたい。振られるのなんて分かってるし、そもそもマイキーが私をそんな目で見ていないのも分かるのだがこのモヤモヤしたどす黒く切ない感情をどうにかしたい。運良く私はマイキーと中一から同じクラスで自然と仲良くなり、遊ぶ仲だった。だから告白するぞなんて息巻いていたけれど、現実はそう上手くは行かないものなのだ。

チャンスはあった…と思う。

「おーいなまえ帰ろうぜ」
「オッケー。今日ドラケンは?」
「ん〜、今日は予定あるみたい」
「へっへぇ〜」

今がチャンス!今日がチャンス!と思ったが実際二人で帰ると告白を意識し過ぎて言葉に出来ない。ラーラーラーララーラー言葉に出〇ない〜♪なんてかの有名なあの歌が頭にループしている程に。

「どうした?元気ねぇの?」
「ふぉっ!べっ別に元気あるよ!歌歌えるくらい元気だよ!」

何時もより口数が少ないせいでマイキーに心配されてしまった私は、両拳をグイグイと上下に上げ元気アピールして見せた。マイキーは「なら良いけど」といつもの笑顔で私に笑い掛ける。この笑顔がまた狡いのだ。この笑顔が私だけのものだったら良いのになんて何回思ったのだろう。

「じゃあ歌ってよ」
「んん!?」
「はーやーくー。良いじゃん。聞きたい」
「くっ」

マイキーの無茶振りにこの状況で勿論告白出来る訳は当然なく、小さい声で私は頭から離れぬあの歌を歌うしか無かった。

「アッハハハ!んでその歌なんだよ」
「あはは、何でだろー。笑って頂けて何よりデス」

それはですね、緊張して言葉に出来ないからですよ万次郎君と心で返答し、上手くもない歌声を聞かれ墓穴掘る私であった。






またある日にチャンスと言うものはやって来たと思う。
日曜日、マイキーが私に「神社来て」と簡潔なメールを送ってきた。私は乙女ゲームにハマっており最近推しキャラの田中次郎君の攻略に勤しんでいたのだが、ルンルンで二つ返事をし、身支度してマイキーの居る神社へと向かった。なんてチョロい女なのだろう。

着けばマイキーは何処にも見当たらなくて、あれ?私場所違ったんか?と少し心配になりメールを確認するも場所は合っている。どうしよう、電話でもした方が良いのかななんて思っていれば背後から声を掛けられた。

「ワッ!!」
「っっ!」

声の主はマイキーで、足音が全然しなかったから全く気付かなかった。夕方の神社という事もあり、少しだけ不思議な景色を見せていたからマイキーのその声に私はかなり驚いてしまって声が出なかったのだ。

「ゴメン。お前が俺探してるの見えたから驚かせようと思ったんだけどやり過ぎた」
「あ、ううん。大丈夫」

私が本気で驚いた事に素直に謝る彼は子犬みたいで、こんな所も好きなんだよなぁ許しちゃうよなぁなんて思いが募る。胸がギュッと掴まれて今日こそ言おうと決意が強まる。

「あ、えっと何か用だったの?」
「あぁ、んー」

中々言葉を繋がない彼に私は頭にハテナを浮かべた。すると彼は持っていたコンビニの袋から一つ何かを取り出した。

「どら焼き食べね?」
「どらやき?」
「うん。どら焼き。うまいよ」

うん、そうね。どら焼きね。美味しいよね。私も好きだよ何て事より食べる為にマイキーはわざわざ私を呼んだのだろうか。いや、呼んでくれるのは嬉しいし、マイキーとこうやって二人で居られるのも私にとっては凄く嬉しいんだけどさ。何故にどら焼きなのかね?

「呼んだ理由はどら焼き?」
「ん、一人で食べるより二人で食べる方が美味いじゃん?」
「それはそう、だね」

そう言えば会話は終了してしまい、黙々とどら焼きを食べる私達は何とも言えない雰囲気を醸し出していた。マイキーはペロリと食べ終わると地面に寝そべった。
言え!言え私!今言え!と私の脳内から告白を迫られるが、喉まで言葉が出かかっても詰まってしまう。普段はペロリと食べてしまうアンコも今日は中々喉を通らなくて恋する乙女は切ないわと自分に投げ掛ける。

「こないださ〜」
「うん、何?」
「夜補導されたんだけど俺とケンチン兄弟に見えてたらしくてさ」
「まじで?分からんでもないね」
「お前までそう言うのかよ。場地にもそれ言われたー。お前顔幼ぇもんなって」
「アハハ」

無言な空気を破ったのはマイキーだった。いつもと同じような会話に、今の私にはそれが有り難すぎてホッとする。
それからはいつもと変わらない世間話をして、気付けばもう空にはお星様がキラキラ光っているではないか。

「…じゃあそろそろ帰るか。送ってく」
「…ありがとう」

マイキーと居ると時間の流れが早くていつも名残惜しい気持ちになってしまう。今日こそ告白するつもりだったけれど、今日は日を改めてもう少し作戦を練ろう。なんて考えていた矢先、立ち上がろうとした私の腕をマイキーはグッと掴んだ。

「わっ、どうしたの?」
「ねぇ…いつ言ってくれんの?」
「え?」
「言う事あるんじゃねぇの俺に」

脈拍数は一気にマックス、私の顔はみるみる紅潮していき、体の温度は急速に熱を帯びる。
私が言いたい事分かるのだろうか。私の気持ちに彼は気付いていたのだろうかと疑問が交差する中、マイキーは私に整理をさせる時間を与えてはくれない。

「顔真っ赤じゃん。わかりやすっ」
「っ!」

バレている。これは完全に私の気持ちに気付いている。このマイキーの楽しそうな顔が何よりの証拠だ。掴まれていた腕は離してはくれず、目線も逸らしてはくれない彼に私の選択肢はもう一つしか残っていないことを思い知らされる。

「分かってる、マイキーの気持ちは分かってるけど言いたい事があるの」
「うん」
「あのね、私、マイキーの事がその、好き、で」
「うん」
「でもマイキーが私の事そんな風に見てないって事は分かってるし、だけど気持ち伝えておきたくて」

緊張と振られる怖さで鼻の奥がツンとなる。人生で初めての告白は私が想像していたものよりずっと単純だった。振られるのも怖いけど本音はもうこの関係で居られなくなるのでは無いかという思いの方が強い。

「ん。それで?」
「それで、って?」
「だぁかぁらぁ、お前は俺とどうなりたいの?」

何時に無く真剣な表情で聞いてくるマイキーに、私は唾をゴクリと飲み込んだ。言えるチャンスは一度きりの今日限りなのだ。当たって砕けろ私の恋心よ!振られたら今日はオレンジジュースやけ飲みして、乙女ゲームの田中君に慰めて貰おう!

「私と付き合って欲しい」

言った!言えたぞ私!頑張ったじゃん!凄いぞ私!
心臓が口からまろび出そうなのをぐっと飲み込んだ。マイキーは寝そべった体を起こし、私の告白に満足気にフッと口元を上げる。

「うん、やっと言ってくれたじゃん。俺も好き」
「だよね!ありがとう!明日からも変わらず友…え?」

てっきり振られるもんだと思っていた私は先走り口にした言葉にマイキーはニコニコ笑顔で私の頭をそっと撫でる。

「本当はさぁ俺から告るつもりだったけどお前に言われたくて待ってた。柄じゃねぇけど」
「は?え?んん??」
「お前俺が告白される度に、『万次郎君そんな女辞めて!』とか『万次郎君!私にしなよ!』とか凄ぇ顔に出んだもん」

マイキーの精一杯の裏声で私の心を読む彼に、思ってたよ!思ってたけどさ!そんなぶりっ子ぽくはないぞ私なんて脳内にツッコミを入れる。

「…すっごい嬉しいんだけど、私でいいの?」
「あ?」
「だって私、歌も下手だし周りの子より可愛いくないよ?」
「それ全く関係ねぇー。んな事気にする必要ねぇだろ。俺にとっては可愛い過ぎるくらいだし。俺の女になるんだから自信持てよ」

自信家のマイキーにそう言われるともう何も言えなくて、何より好きな人本人から言われる可愛いというフレーズにこれ程気持ちが舞いあがるものとは。世の中のカップルはこんな毎日を過ごしているのか。甘すぎるぜ。

「…いつから私の事好きって気付いていたの?」
「あ〜。お前俺と二人ん時口数少ねぇしいつも顔真っ赤だし、俺が他の女と話してるとぶすぅってしてんじゃん。こんなん誰が見ても気付くだろ」
「そんな顔に出てました?」
「うん。バレバレのバレ」

隠していたつもりだったのに彼は初めから気付いていたのかと思うと羞恥心で穴があったら入りたい。赤く染まった私の頬をマイキーの細い指が擦り、私とマイキーは目を合わせる。
彼はもう片方の自分の手を頬に乗せ満足気に微笑むのだ。

「付き合おっか、俺たち」
「…私でよければ是非」
「うしっ!じゃあこれからは俺も遠慮はいらねってことな!」
「ん?遠慮とは??」

そう言うと私の腕を引っ張り起こしマイキーは悪戯っ子のようににんまりと口角を上げ告げた。

「あーんな事やこーんな事」
「え!まっ!は!?」
「だから俺ら彼氏彼女なんだからもう遠慮はいらねーよなってこと!お子ちゃまのお前には分かんねぇかぁ」
「マイキーだってお子ちゃまでしょ!」

分かっていた。分かっていたよ君が大体こういう性格だって事は。私はマイキーに手を引かれ神社の階段を一段一段降りる。
今迄もこの神社にマイキーと来たことはあるけれど、普段と違うのは繋がれた右手が何よりも証拠だ。

「大切にするから、お前の事。本気で好きだから」
「…私も好きだよ。大好き」

階段を半分降りた所でマイキーはくるりと向きを変えて私に告げる。本日二回目となる告白に私も彼の思いに応える。

「素直じゃん。かーわいっ」

私の返答に満足した彼は再度階段を降り始めた。彼のいつも見ていた後ろ姿を見ながら"幸せ"と言う文字が私に降りかかる。
私はその気持ちを表すかのように繋いだ手のひらを再度ギュッと繋ぎ直した。










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田中 次郎君 (15)

主人公が好きな乙女ゲームのキャラクター。
ド派手な金髪のこのキャラクターは少しだけマイキーに似ている気がして推しキャラになった。

口癖は「当たって砕けようぜ」
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