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「なぁなまえ」
「なぁに?」

事後の終わり、ベッドに横たわり眠そうななまえに俺は話し掛ける。細身で雪のような白い素肌をシーツに纏うなまえは俺の"お気に入り"だった。華奢な腕はちょっと力を込めれば折れてしまいそうで、小さな唇はふっくらと柔らかい。そんなとこは他の女と大差ねぇけどそこらの女とは違うのは、なまえが俺に媚びを全く売らないということだった。

「俺と付き合わねェ?」
「無理」

なまえは目も合わせず一言、即答したのだ。
そこらの女は何度かセックスすれば次第に好きだとか付き合ってとか大概そんな事を言ってきて、ただのセックスフレンドという関係に愛ある言葉何て一度も言った事はない筈なのだが、何を履き違えるのか勘違いする女も少なくは無かった。一番ウザかったのは他の女切って自分だけにしろとか言う奴。興もそがれて関係は終了、速攻連絡先はブロック。
そんな事ばかりだった為か俺は人生で一度も告白という事をした事は無く、また不自由した事も無かった。それなのにまさか振られるとは。

何故、自分がどうして振られたのかが分からない。自信はあった。
お気に入りのなまえには他の奴よりうんと優しくしてきたつもりだったし、俺が誘えば生理以外で彼女が断る事も無かった筈だ。
彼女は俺に対してセフレということをちゃんと理解していた。友達以上恋人未満、ドライな関係。つまり何も聞いて来なければ束縛もしない。それが何より一緒に居て楽だったのが正直な所。そしたら次第に関係は長い時間を費やしていき、気付いたら今まで自分が付き合ってきた女達の期間よりもずっと長くなっていった。
なまえは他の女と違って初めから猫かぶる事は無かったし、甘ったるくて鼻につくような香水を振り掛けて会いに来る事も無かった。ヤる前に飯行かね?と誘えばじゃあコンビニでとかいう変わった女だった。今までそんな女居たことが無い。そんなアイツと居るのが唯一俺の気が休まり、自分だけの"女"にしたいという感情が芽生えていった。

「一応理由聞いてもい?」
「蘭ちゃんはセフレだもん」
「んだそれ。俺セフレから彼氏に昇格出来ねぇの?」

するとなまえは小さく微笑んで問いには答えず、俺の髪の毛をサラりと指で絡め撫でた。

「あ、でも蘭ちゃんの髪は好きだよ」
「ハ?髪?」
「うん。長いのに傷み少なくてサラサラしてて気持ち良い」
「意味分かんねぇんだけどー」

俺の髪?何だソレ。そんな事言われたのは人生で初めてだった。
なまえは上半身を起こし俺の髪で遊び始める。こんな事許しちまうのもなまえだけって知らねぇんだろうなコイツ。

「なぁー、もしかして彼氏居たりすんの?」
「まさか。蘭ちゃんより格好良い人なんていないもん。それに私に彼氏出来たら蘭ちゃん何するか分かんないでしょ」
「うん。殺す一択」

俺の返答に彼女は笑った。
そこ迄分かってて何で俺と付き合ってくれないのだろう。
自惚れていたが彼女も自分の事を好きだと思っていた。
冗談なんかじゃねぇんだけどなぁ。女ってもっと単純なモンかと思っていた。あー…どうにか俺のモンにしたいなぁ。
薄れゆく意識の中そんな事を考えては撫でられる心地良さに俺は意識を手放した。





「兄貴ってさ、まだあの女と続いてんの?」
「あ?女?」

とある日。弟の竜胆に言われた一言につまらないテレビから目線を弟へと移す。

「兄貴が家に女呼ぶのなんて一人しかいねェじゃん」
「あぁー、振られた。セフレだけどな」
「え!マジで!?セフレ!?彼女じゃねぇの!?つか振られたのかよ」

大きな声を出す竜胆に俺は眉を顰める。信じられないと言わんばかりに驚きを隠さない弟は俺の傍へ近寄り俺が座っているソファへ腰を降ろした。

「うるせぇよ大声出すな」
「ゴメン、いやでも兄貴家に女なんて普段連れ込むの嫌うじゃん?だから何回も家に来てたし付き合ってっかと思ってたわ」

確かに元から彼女でも何でも無い女を家に連れ込むのは嫌いだった。体だけの繋がりで自分のベッドで寝転ばれるのも気持ちが悪りぃし、忘れもんだとか言ってわざとまた来るように仕向ける口実を作るような女も過去に居たからだ。そんな事もあってから毎回ホテルを使うようにしていた。なまえを覗いて。

「まぁバチが当たったんじゃねぇ?」
「ハァ?」

口元をニヤリと上げて竜胆は言う。いつの間に俺の弟はこんな偉くなったんだと俺は眉間に皺を寄せ竜胆を睨みつける。そんな俺の睨みに竜胆は怯むことなく俺に言った。

「だって昔俺の彼女寝取ったことあったじゃん?俺、結構傷付いたんだからなぁ。泣いたわ〜」
「泣いたとか嘘言ってんじゃねぇよ。つかその女竜胆いない時間狙って俺ン所に来るような女だぜ?別れてせーかい。あんなのと付き合ってたらニィちゃんこそ泣いちゃうワ」

そういえばそんな事もあったな。バチ?いやいやバチ以前に俺は諦めてねぇし振られた理由も聞いてねぇ。まぁ理由聞いた所でアイツを失うぐらいなら俺はどんな事だってするだろう。アイツの笑顔が他の薄汚ぇどこぞの知れない野郎に向けられるってのを想像するだけで反吐が出る。

「顔、コッワ」

竜胆が何か言っていたが、そんな事はどうでも良くて俺は携帯を取り出し一つのメッセージを彼女に送った。





「珍しいね、蘭ちゃん今週2回も会えるなんて。どうしたの?」
「んー、会いてぇから呼んだの。ダメだった?」
「ダメじゃ、ないけど」

少し照れ臭そうに頬を染めるなまえはちっさくてどの女よりも可愛く見えてしまう。急な呼び出しに急いで来たのか彼女は少しばかり顔に汗を浮かべている。俺に会う為急いで来たのかと思うと、愛らしくていじらしい気持ちに駆られた。

「おいで」
「…うん」

俺が手招きすれば、もう分かっているかのようになまえは俺の足の間に入りちょこんと座る。彼女の髪から香水でも何でもないシャンプーの香りがして俺は顔を疼くめた。

「ちょっ止めて!私急いで来て汗臭いから!」
「急いで来るとか可愛すぎかよぉ。ん、お前いー匂いすんね」

やっぱり急いで俺ん所に来たのかと思ったら余計に彼女を愛しく感じた。彼女を後ろから抱き締めればなまえは一生懸命俺の腕から逃れようと抗う。そんな事したってただの煽りに過ぎねぇのに馬鹿な奴。

「今日の蘭ちゃん変だよ!いつもこんな事しないじゃんか!」
「だって俺お前が好きだしぃ?」
「……蘭ちゃんて彼女に振られてばかりでしょ?」
「あ?んだ突然」

俺が好きと口にするとなまえはピクリと暴れる腕を止めた。前を向いているせいでなまえが今どんな顔をしているか分からない。振られてばかりと言われ過去の付き合っていた女達を思い出してみれば確かにそうだと気付く。「もう耐えられないの」やら「好きだけど離れたい」やらそんな事言われて関係が終わりを告げる事が多かった。延々泣かれる女達に俺は否定する訳でも引き止める訳でも無く、ただめんどくせぇが勝ってしまってそこから彼女何てものは作らなくなってしまったのだ。

「蘭ちゃんてほんっと罪な男だよね。そうやって好きって言えば何でも手に入って来たんでしょ。…蘭ちゃんと付き合ったら今より不安が大きくなってダメになっちゃうんだよ」

小さく震える声で話すなまえに俺は無理矢理此方に体を向かせて再度抱き締めた。泣きそうなその顔を見られるのが嫌なのかなまえは顔を下に向けて俺に見られないようにする。そんなとこもあー、かわいーなんて思えてしまう女はお前しかいねぇんだけど。

「間違ってねぇとは思うけど一つ間違ってんだよなぁ」
「え」

俺の肩から顔を離さない彼女に俺はそっと手を頬にやり彼女の顔を此方に向けキスを落とした。
目を潤ませ赤くする彼女が俺を見てやっと目と目が合う。

「俺から好きって伝えたのお前が初めてなんだけど」
「そっそんな事言って付き合ったら蘭ちゃん私をいずれ捨てるに決まってる!セフレから始まる恋なんてたかが知れてるし、絶対上手くいきっこないもん。それに…」
「ん?」

俺の服を小さな拳でキュッと掴み、言いづらそうに俯く彼女の言葉の続きを静かに伺う。

「…蘭ちゃんに切り捨てられたら私一人ぽっちになっちゃう。耐えられなくて死んじゃうかも。そうなるって初めから分かってるからこの関係のままの方がずっといい」

泣くのを必死に堪えているなまえは、本当に可愛くて堪らない。小さな怯えた小動物のようだった。
そんな事考えてたのかよ。馬鹿な女ァ。捨てるぐらいなら初めからこんな面倒臭い事言わねぇってのに。

「あのさぁ、俺お前にだったら俺の全部くれてやるよ」
「ぜ、んぶ?」
「そー。全部。お前が独りぼっちとか言うんなら毎日一緒に居てやるし、切り捨てられるとか訳わかんねぇこと不安になんならもしそうなった時にはお前に殺されてやるよ」

俺はそっとなまえをソファへ押し倒し、彼女の両手を持ち自分の首へ宛てがう。裏切るつもりもねぇし切り捨てる気なんて更々ねぇけど。もしそんな事があればコイツになら殺されたっていい何て思えるくらいに俺はコイツを好きになってしまっている。

「そんくらいお前の事好きになっちまったんだけど。俺の女になってくんね?」

もう一度思いを口にすれば今度こそなまえは目に涙を沢山浮かべて頬へと涙が伝った。

「ウッ…ぁ私も蘭ちゃんが好きだしっ、私のほうがぁっ先に蘭ちゃん好きになったしっ…ヒック」

何その可愛すぎる返事。涙を流し嗚咽を漏らしながら言うなまえに俺は心底この女を手放さないし逃がしもしないと心に誓う。「見ないで!」と両手で顔を隠すなまえに、俺は無視してその手を払い除ける。

「お前ほんっと俺を煽るの上手いよなぁ。可愛すぎんだよ。口開けて」
「煽ってなんかないもん!っン」
「いや、俺をここまで落としたんだから責任とってもらわねぇと」

何度もセックスして、もう余す事無くお互いの体を知り尽くしているという癖に、俺が服を脱がそうとなまえの来ている服に手を掛ければ顔を真っ赤に染めて体に力が入っているのが分かった。それがまた可愛くて、つい虐めたくなってしまう。

「なに、緊張してんのー?寧ろ興奮すっから構わねぇけど」
「……っ変態!」
「それ、褒め言葉なぁ」

悔しそうな表情のなまえに褒め言葉〜とか言っちまったけど、実際は余裕なんか無くて関係の名前が変わるだけでこんな満ち足りた気持ちになるなんて知らなかった。好きな女とする行為自体が、今までのどんなセックスよりも気持ちが良くて幸せってこういう事を言うのかとこの歳になって初めて知った。幸せという気持ちが俺には似合わなすぎてウケるし糞ダセェと思うけどそれが本音だ。






「も、無理だよ蘭ちゃ…げ、限界」
「あ?俺まだまだイケんだけど」

夏場でクーラーが効いた涼しい部屋の筈なのに俺達は汗だくでお互いを求め合った。しかし彼女の体がもう限界な様で、ほんの少しだけ反省する。
まぁでも何度も俺の名を呼んで、可愛く啼くアイツもアイツだよなぁと反省会は頭の中で早々に途切れた。

「ホラ、水」
「あ、りがとう」

ゆっくり体を起こして水を口に含む彼女の体には俺の付けた印が所々無数に付けられていて、満足感を得る。
そんな俺を見てなまえはギョッとして布団にくるまったのだ。

「もうしないからね!本当にしないから!もう次したら死ぬから!」
「アハ。流石になまえチャンに死なれたら困るから我慢するわぁ。無理させた詫びに何かしてやろうか?」

その一言になまえは布団から顔を鼻先までひょこっと出した。
何か欲しいもんでもあんのかなと思ってみれば全然違うことをなまえは口にした。

「他の女の人達は、どうするの?」
「他の女ぁ?」
「うん。いっぱい居るでしょ?らんちゃんと遊んでる女の子達」

俺にそれを告げるとなまえはまた布団に潜り込んでしまった。
コイツ本当可愛いんだけど。この女はどこまで俺を射止めるのだろうか。関係性が変わっても切ってとは言わない謙虚な彼女に、俺は布団を捲し上げて彼女を組み敷く。両手を掴んで逃げられないように固定し、鎖骨へキスを落とせば甘く小さな吐息混じりの声をなまえは漏らす。

「んっ、あっ、ちょっともう無理って言ったのに!」
「お前が可愛すぎるから悪いんだよ。それに女ならお前を家に呼んだあの頃から切ってるし興味もねぇから安心して。お前以外もう勃たねェわ。何ならケータイ確認してもいーよ。お前なら見せてやる」
「なっちょっ蘭ちゃっ、あッ」

彼女の鎖骨から耳元へ移動し軟骨を甘噛みすれば彼女はピクリと体を跳ねさせた。先程の行為もあってか感度が高い彼女の反応に俺は舌なめずりし、小さく囁く。

「さっきの訂正。死なねぇ程度に愛すからもうちょい付き合ってくれな」
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