アナザー夢 | ナノ

追いかけっこはいつしか逆に


「好き」だと言えば、「ありがとう」と返ってくる。
「付き合って欲しい」と言えば「ごめんね」と断られる。

告白され慣れている南雲くんの、「ただの告白してきた名前も知らない子」の内の一人になりたくなくて、今日まで彼に好きだと伝えてきた。

しかしそれが今じゃ引き際が分からなくなって追いかけまくった結果、わたしがゲット出来たのは"彼女の座"ではなく、"とにかく諦めの悪い女"という称号である。しつこくてごめん。でも本当に大好きだったの。

だけど南雲くん、どうか安心して欲しい。

そんな恋心はもう、本日限りで胸の奥底に仕舞おうと思うよ。







好きな人の特別な子になる為にはどうしたらいいんだろうと考えて、先ずはわたしのことを知ってもらわなきゃという考えが人より強かったのがいけなかったのかもしれない。

わたしが在籍しているJCC内で一番モテる男は?と問われたら、ほとんどの女生徒は南雲くんだと口にするだろう。高身長で顔も良く、オマケに並外れた身体能力を持ち、親しみやすい笑顔に声色も上乗せされれば、女の子の心を奪わない訳がなかった。少し周りの皆よりも行動が派手でよく先生の手を焼かせているけれど、それが余計とまた女子の目を惹いてしまうんだと思う。

とはいえ、当時のわたしには別の科に彼氏がいた。
用がなければ行くこともない資材室に呼ばれて、なんだろうとドキドキ胸踊らせて向かえばもう最悪。

「別れて欲しい」

その場で涙して別れたくないと喚くわたしに対し、「お前好き好き重いし、そういう縋るようなところが嫌なんだよ」と彼氏であった男は冷たく言い放った。

縋るって…縋るに決まってるだろこのタイミングはさぁ!

嫌だ嫌だとボロボロ涙を流すわたしに目もくれず、元カレはそれだけ言うとため息吐いて資材室を出て行ってしまう。それは五限目を知らせる為の予鈴が鳴る、3分前の出来事だった。

早く涙を拭って教室に戻らなければならないのに、あまりに突然だったから心も体も追いつかない。そんなときカタン、と棚の奥から音がして、顔をひょこっと覗かせたのが南雲くんだったのだ。

「え…えっ…?」
「ごめんね。盗み聞きするつもりじゃなかったんだけどキミ達全然僕の気配に気がつかないもんだからさあ」
「あっいえ」
「僕、坂本くん達と命がけの隠れんぼしてたんだけど、まさかこんなとこに誰か来るなんて思わなかったよ」
「ごめんなさい…?」

…命がけの隠れんぼとは?ってかなんでわたし謝ってるんだろ。
わたしこそ他に人がいるとは思わず驚きで涙は止まる。にこにこ屈託のない笑みから思うのは、ごめんねなんて多分、南雲くんは欠片も思ってなかったってこと。

「ってかさぁ、あんな男に泣くの勿体なくない?」
「…へ」
「時間の無駄だと思うけどな

南雲くんはわたしと目を合わせず携帯をピコピコ操作しながら淡々と口にする。だがその刹那、あまりにも南雲くんの横顔が綺麗で魅入ってしまった。サラサラの髪の毛に、筋の通った鼻。そうしてわたしの視線を感じて目線だけを此方に移したとき、心臓は一度大きく跳ね上がった。同じ科にいるとはいえ、こんな近くで南雲くんを見ることも、話したこともなかったから。さっきまで頭の中は元となってしまった彼氏のことでいっぱいだったのに、不思議だ。

「僕もう行くけど、その顔でココ出ないほうがいいよ。泣いたってすぐ分かるし」
「あっ、ありが…と」

バイバーイと手を振る南雲くんに反射的に同じく手を振る。そうして一人取り残されたわたしは暫くその場に立ち尽くしていて、その数秒後にはドンドコ太鼓のような高鳴りが胸を騒ぎ立て始めた。

こ、こんなかっこよかったんだ南雲くんて!

悲しい感情はいつの間にか消え去って、南雲くんのあの去り際の笑顔を思い出すと瞬く間に頬が熱を帯びていく。友人がこんなことを知ったらきっと「あんた…切り替え早すぎ」と呆れることだろう。


しかし言われても仕方がない。だってわたしは今しがた、南雲くんに恋をしてしまった。




「んー…そんなことあったっけ?」
「あ、あったよ!南雲くんがいた事わたし気付かなくって、」
「覚えてないな

だけど初めて告白をした日、彼はごめんねと一言言ってわたしをフッた。だがこのたったの一回で南雲くんと付き合えるだなんて烏滸がましいことは考えていなかったので、これは想定の内だ。そんなことよりもついこの間話したのにわたしのことをこれっぽっちも記憶にないことの方がショックを受けた。一応、同じ科でもあるのに。

そうしてこれを境にわたしの猛アピールは幕を開けることとなったのだ。

南雲くんが授業に顔を出す度、できる限り声を掛けた。「おはよう」、「南雲くん今日もかっこいいね」、「次の射撃の実技、教えて欲しいな」等々。ぶっちゃけこんな自分が積極的に動けるなんて、南雲くんに恋しなきゃ知らなかったことだ。

だけどそんな声掛けにも動じない南雲くんは、「…おはよー」、「どうも」、「僕なんかより適任者いるでしょ。坂本君とかさ」と当たり障りのないように見えて何処か壁を感じる笑顔でわたしを適当にあしらっていく。これには胸は少し軋んだ音を立てるけど当時のわたしは本当にバカな女で、一直線過ぎて隙があれば話しかけにいき、チャンスがくれば好きだと言い続けるとんでもない女に成り果ててしまっていたのだった。

そのおかげで、話したことがなかった赤尾ちゃんや坂本くんとお友達になれた(二人はどう思っているか分からないけども)のは嬉しく思うけど、南雲くんとわたしはいつだって交わることのない平行線である。

「南雲くん今日の授業、敵に見つからないようにペイント弾当てるやつ!南雲くんクリアするの早すぎてびっくりしちゃったよ」
「あー…どうも。キミはドジってたよね割とすぐに」
「へへ…うん。で、でね?よかったらなんだけど、今から一緒にお昼でもどうかなって」
「ごめんねー、僕坂本君たちと約束してるから」

こんな会話は日常茶飯事。「別におめーと約束してねぇよ」って赤尾ちゃんの声が聞こえるも、わたしはあははと笑って「いいのいいの!話せただけで嬉しいし」と元気な素振りをしてみせる。横にいた坂本くんからは心做しか憐れみの目を向けられたような気もするが、これにも笑顔で対応することも欠かさない。もう、お手の物だ。

南雲くんはモテる。この養成所内で一番と言っても過言ではないだろう。その為わたしだけが南雲くんを好きな訳じゃないから特に毒殺科の女子の目は痛かったし、時には「相手にされてないくせに」とわたしに聞こえるように通りすがった際に言われたこともある。だがしかし!こんな所で立ち止まっているわたしじゃない。好きならアピールしないと、特に南雲くんのような自分が気に入った人にしか興味をあまり示さない相手には余計と積極的にいかなければ、わたし達のような凡人はただの凡人止まりで終わることになる。


…まぁ、凡人どころか全然興味の欠片も持ってはくれなかったんですけど。





「きみさぁ、なんでそんな僕に引っ付いてくるわけ?」
「へ、」
「毎日毎日懲りないよねってこと。暇なの?」

自由行動が多い南雲くんを見つけるのはちょっと大変だ。だから彼を見つけたらいつもわたしはその背を追いかける。一瞬わたしと目が合うと眉を顰められるけど、南雲くんは無視したりだとかそういったことはしなかった。南雲くんがわたしを振り切ることは確定して簡単で、たとえば走って逃げられたら絶対にわたしが追いつけないことを彼は分かってるだろうに、南雲くんはそれもしない。だから話しかけることは許されているとプラスに思ってしまっていたのもよくなかった。

「っ暇じゃないよ!次筆記の小テストだし」
「だったら僕のことなんか追わずに勉強しなよ。キミいつもテストの点悪いらしいじゃん」
「うぐっ、なっ南雲くんと話す方が大事なの!」

だけど今日も今日とて塩対応の南雲くん。塩対応過ぎてなんとか保っていた心が最近は崩れ落ちそうである。胸は毎日小石を当てられたように痛むけど、それでも諦めきれずに恋をし続けてきた。それについては後悔していない。でもどれだけ好きだよって伝えても全く相手に興味を持たれないとなれば、考えないようにしていたことが嫌でも脳裏をかすめる。少しの進展も見当たらないわたしの恋は、自分の言いたいことを一方的に伝えているだけで南雲くんを困らせているだけだよなって。

初めから分かってるんだよ本当は。だけど分からないフリをしてただけ。

「前にギャンギャン泣いてたのが本当にキミかって疑うレベルだよ」
「いやだってあれは……って、覚えてるんじゃん!わたしのこと南雲くん覚えてないって言ってたのにっ」
「キミがしつこいから思い出したんだよ。あの時は健気に見えたのに、女の子って怖いよねぇ

はあぁとあからさまに息を大きく吐く南雲くん。それはいつもわたしによく見せる表情だ。だけど覚えていてくれたことも相まってわたしは思考が一旦停止すると同時に目はぱちぱちと瞬いていた。

「ちょっまってまって。その…健気に見えたってもしかしてわたしのことかわい、」
「そういうんじゃない」

にっこりと微笑みの圧を受けてすぐさま「ですよね」しか返せなくなるのが辛いとこ。まるで調子に乗るなと言われているみたい。毎日こんな感じで全然振り向いてくれる気配もないのに、なんでわたし南雲くんのこと好きになっちゃったんだろ。何度もそう思うのに、わたしの表情が変わるのが面白いのか楽しいのか、時折見せるいつもよりちょびっとだけ柔和に目を細めたこの顔が目に映ると、やっぱり好きだなと思ってしまうのも本音だった。それに最近ではこうして足を止めて会話もしてくれるようになったからそれも嬉しくて。しかしこうもピシャリと現実を突きつけられてしまうと、流石のわたしも顔が引き攣りそうだ。

「…泣きそうなんですけど」
「泣いたって意味ないよー。子供じゃないんだから」
「っ、南雲くんひどい!なんでモテるのか分かんない!!」
「あはは。そんな僕のことをキミが一番好き好き言うんじゃない」

論破されて口をぎゅ、と閉じる。
南雲くんはケラケラ笑ってわたしに背を向けた。どうにもわたしはこれ以上頑張れそうにはない。だって南雲くんを前にして初めて視界が潤みそう。冗談じゃなく、結構、ガチで。

それでも小さな強がりで好きな人の前で涙だけは流したくなかった。だからバレないように自然を装って小さく鼻を啜り、聞こえる声量で彼の名を呼んだ。

「……わたしは南雲くんのことが好きだけど、その、南雲くんはわたしのこと…この先好きになってくれることはない?」

いつも気持ちを伝えるときは本気だけれど、緊張の音が普段の倍違う。声はもしかしたら震えていたかもしれない。ほぼ0パーセントの可能性に期待なんてするだけ無駄ってもう分かってるでしょ。だって期待した分だけショックを受けるのはいつだって自分だ。

南雲くんの黒色の瞳から視線を逸らしたくなるけれど、あまりに真っ直ぐわたしを見つめるから逸らせない。それでいて少し考え込むような表情の南雲くんは、初めてわたしに見せた顔だった。


「…いつも言ってるでしょ。ごめんねって」


想定内の返事にわたしのなかでストンと心の温度が下がった。そうだよね。どれだけ頑張ったってわたしは南雲くんの彼女にはなれない。今更すぎて申し訳ないけれど、やっと踏ん切りつかなかった気持ちに終止符を打つことが出来そうだ。ここまで気持ちを伝えても南雲くんは全然わたしに興味もないし、応えては貰えないんだもん。もういいかって。

でもそうだな。
出来れば「キミのことは好きにならないよ」ってズバッと言ってくれた方がダメージは大きいけど、もうちょっとあっさり諦められたのかもしれない。

遅すぎるくらいの恋の終わりに、わたしは普段通りを装って笑顔を作る。

「うん、そっか。南雲くんはいつも同じ返事だね。…ありがとういつも聞いてくれて」
「は、」
「あっ!予鈴!テスト頑張ろうね!!筆記だからってサボっちゃダメだよ」

タイミングよく鳴ってくれた予鈴にわたしは手を振って背を向ける。なんだか南雲くんに恋をした頃の逆バージョンみたいで懐かしく感じた。そんなに月日は経ってなかったはずなのに、南雲くんに恋をしてから毎日が濃かったから余計とそう思うのかもしれない。今思えばわたしから手を振ることも初めてだ。それでいて南雲くんに恋をしてから元気な素振りをすることだけは得意になってしまったので、わたしの作り笑顔にきっと南雲くんは気が付かない。でも、それでいい。

今日が終わって、それでまた明日になったら、いつも通りの毎日が来る。

ただそこにはわたしの恋がひとつ、終わっただけなのだ。






資材室で会った女の子が僕のことを好きらしい。

「やだ、別れたくない」

うわ修羅場じゃん。なんでよりにもよってこの場所選ぶかなぁって人に言えることじゃないがそんなことを思った。これが坂本くんだったらちょっと面白そうだけど、全く知らない人達の恋愛事なんか興味があるわけがなく。そして僕の気配に全く気付く素振りもない二人はずっと別れる別れないを繰り返してる。

そうして数分経ってやっと彼氏であったろう男が室内を出て行った。それでもまだ女の子が泣き止まないもんだから痺れを切らして出て行った訳だけど、目が合ったこの子があまりに泣き腫らした目をしていたから正直ギョッとした。あの数分でよくここまで泣けるなって。

「僕もう行くけど、その顔でココ出ないほうがいいよ。泣いたってすぐ分かるし」
「あっ、ありが…と」

別にこの子がどう思われようが僕には関係ないし、当たり障りない会話をしただけ。それだけなのに彼女の瞳は僕に注がれていた。その頃にはもう涙は止まり、少し赤い目を僕に向けながら。

それからだ。彼女が僕の元に来るようになったのは。

「南雲くん、好き」

初めて告白されたときは正直な話、彼女のことは覚えていた。あんな修羅場を見ちゃったら中々忘れられないしその場で会話もしちゃったしね。だけど僕はそんなことはまるでなかったかのように初めて顔合わせしましたみたいなノリで彼女の告白を断ったのだ。

「ありがとう。でもごめんね」と。

覚えてないフリをする僕に彼女は分かりやすく落ち込みを見せた。だって付き合う気がない子に気を持たせること自体好きじゃないし、後々面倒になるのも嫌いだし、そもそも最近まで他に男がいたくせに切り替え早すぎでしょ。

だからこの時点での僕の判断は間違ってなかったはずだ。

なのにそれからも彼女は根気よく僕を見つけては好きだと口にし、そして何かしらの会話をしようと僕に話しを持ちかける。

よく笑う子だった。

それでいて、諦めない子だった。

告白は彼女以外にも幾度かされたことはある。でもあしらっても振っても、ちょっと冷たくしても毎日僕に思いを伝えにやって来る子は初めてだった。

僕が足を止めただけで喜んで、目を合わせば頬を染めて視線を逸らし、短い会話を必死に繋げようとしてくる。

「つーかもう少し優しくしてやれよ。ンな冷てえ態度ばっか取ってっと逆にナマエに飽きられるぞー」
「はあ?別に赤尾には関係ないだろ」
「関係大アリだよ。アイツは私の大事なダチだし」

素直になれよって笑う赤尾に口を曲げた。坂本くんは興味ないくせに、こういう時だけ頷くの辞めて欲しい。ってかいつの間に彼女は赤尾や坂本くんとも友達になったんだよ。ほんとあの子ってなんなんだ。そもそも素直になれって言われる意味が分からない。

こんなことを考えていれば心臓の奥がモヤっとして、それがいつまでも残っているから気持ち悪かった。赤尾に言われた言葉が頭の隅に残って消えないし、彼女が僕の前に現れるとこれまた胸の違和感が募ってくし。

自分が付き合うなら面倒くさくない子がいい。
縛られるのは嫌いだし、重いのは苦手。好き好き求められ過ぎるのも気が滅入る。だから本気になってしまう女の子との接点は今まで躱してきたつもりだったんだけど。

それなのに、それなのにさ。
この子があまりにも諦めずに僕のこと好き好き言うもんだから、僕の視界に勝手に入ってくるんだよ。
補習かもしれないとか騒いでたくせに授業中寝てるし、この間の実習じゃあ足遅いせいですぐ敵に見つかってアウトになってたし。見たくないのに目で追ってしまう自分に気付いたら、今度は僕何してんだろって苛立ちさえ感じた。

だってこの子は僕の好きなタイプじゃない。
今でもこんな僕に毎日好きって言ってくるんだから絶対重いのなんて目に見えてるし、縛ってくるだろうし、僕に好きを求めてくるに違いない。

だけどそれ以上に、彼女の笑顔を見ると気がマトモじゃなくなってしまいそうになるのがとても嫌だった。

彼女にキミのことを覚えてると言ってしまったとき、なんでそんなことを口走ってしまったのか僕にも分からなかった。慌てて弁解したが、その時の彼女の表情に今度は心臓まで痛みを覚える。

ほんと、なんなんだよ。

「……わたしは南雲くんのことが好きだけど、その、南雲くんはわたしのこと…この先好きになってくれることはない?」

一瞬言葉に詰まる。でもこれだけの対応をしてきて、あっさり自分の気持ちを認められなかった。それが僕の敗因だろう。

「…いつも言ってるでしょ。ごめんねって」

喉から出たものはいつもと同じ、もはやテンプレとなってしまった言葉。なのに彼女はいつものように笑わない。いや、笑ってるんだけど、違う。

この違いに気付けたのは、きっと僕がこの子の笑顔を毎回見入ってしまっていたからだ。

「うん、そっか。南雲くんはいつも同じ返事だね。…ありがとういつも聞いてくれて」
「は、」
「あっ!予鈴!テスト頑張ろうね!!筆記だからってサボっちゃダメだよ」

彼女が背を向ける。僕を置いて、行ってしまう。
これで良かったんだと思うのに、胸に残るしこりみたいなものはなんも消えちゃくれなかった。

授業中の彼女は一切僕の方を見ない。いつもチラチラこっちを見てくるくせに、そんなこともせずに友達と楽しそうに喋ってる。まるでさっきの話はなかったみたいに。そうして赤尾に言われた言葉をまた思い返して、認めざるを追えない気持ちに今更になって後悔というものが生まれた。

明日になれば大丈夫。
またきっとあの子は僕のことを好きだと言ってくれる。

そう思ってしまう自分がバカみたいに格好悪いし、最低だとも思った。



だけど現実はそんな甘くはない。






「南雲くん、おはよ」

彼女は僕の袖をぽん、と叩いて笑顔を向ける。それはいつもと同じくらいの元気な眩しい笑顔で。

「あ、」
「赤尾ちゃん坂本くんもおはよー!ちょっと今日の実技の件で教えて貰いたいんだけどっ」

彼女は僕を横切る。
そうして僕の前を歩いていた二人の元へ走って駆け寄っていく。



「ねぇ、ちょっと待って!」


その日初めて僕は自分から彼女の通り過ぎようとするその手を引いた。


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