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私の恋はとても純粋で、しかしどこか歪んでいて、それでも真剣に人を愛する真摯な気持ちなのだと思う。だから、だからこそ、その気持ちが君を傷つけるものでしかないというのなら、私は……。


放課後人のいない教室で、数人の女子と聞き慣れた笑い声に私は足を止めた。そっと教室を覗き込むとそこには見慣れた赤。晴矢だ。クラスメートの女子に囲まれて楽しそうに会話をするその姿は、私にはとても親しげに見えた。もやもやした黒い感情を抑え込むように強く拳を握る。手の平に食い込む爪の痛みが心地好く感じた。大きく深呼吸を繰り返して、気持ちを落ち着ける。

「……晴矢」

それでもノドの奥から絞り出した声は、驚くほど低かった。

「っ、風介」

私を見て怯えたように瞳を揺らす晴矢を見て、くらくらするような甘い支配感と少しの後悔を感じながら、驚く女子達に目もくれずに晴矢の腕を掴んで引っ張る。後ろから「晴矢くん!」と女の声が聞こえて来て、腕を掴む力が強くなった。


「風介、腕、いてえ」

小さい頃によく来た公園のわきで聞こえた晴矢の声で我に帰った私は、振り払うように腕を放した。私が掴んでいたところは少し赤くなっていて、一瞬目を見張る。押し寄せたのは、嗚呼、後悔だ。

「すまない」

「いや、俺の方こそ悪ぃ。風介があーゆーの嫌がるってわかってたのに、俺」

違う、違うよ、晴矢。悪いのは全部私なんだ。
いつ、思いの伝え方を間違えたんだろう。最初は、ただ側にいたかっただけで、一緒に笑っていられたらそれでよかった。くだらないケンカをしてヒロトに小煩く注意されたとしても、幸せだったはずなのに。触れたくなって、私だけのものにしたくなって、誰にも渡したくなくなって。嗚呼、私は欲張りだな。すべてを手に入れたいなんて願ってしまったから、晴矢は傷つく。私のこの気持ちさえなければ、痛々しいほど赤くなった腕をさすることもなかっただろう。

「晴矢、」

「っ、なんだ?」

私はもういなくなるから、だから、どうか、

「もう、泣かなくていいよ」

晴矢、ねえ、晴矢。早く私のことなんて忘れて、どうか幸せになって、誰かを愛して、また愛されて、でもどうか、世界で一番君を愛している私のことを忘れないで、だから……。

「何、泣いてんだよ、風介」

神様早く、晴矢を私の知らない遠くへ連れて行ってくれ。

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