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「ねえ、ヒロトさん」
「ん?どうしたの?」
「"宇宙"って中国語でなんて言うか知ってますか?」
「さあ、わかんないなあ」
「"ユージョウ"って言うらしいですよ」
「へえ。春奈ちゃんは物知りだね」
「だから、ヒロトさん達は素敵ですね」

そう言ってにっこり笑った春奈ちゃんは、ぽかんとする俺を置いてすたすたと去って言った。なんだったんだろう。そこではっと右手にぶら下げたアイスの存在を思い出した。晴矢と風介とのじゃんけんに負けて罰ゲームとして近所のコンビニまで走らされたのだ。「ぼーっとしてたら溶けちゃいました」なんて言って笑って許してくれる奴らではない。俺はおひさま園へと歩き出した。
春奈ちゃんの言った「ヒロトさん達」というのは、きっとおひさま園の皆のことだろう。まだ記憶に新しいエイリア学園でもある。素敵だなんて買い被りすぎだよ、春奈ちゃん。だいたいアイツらはわがままだし口うるさいし、風介なんて簡単に俺をパシるからね。顎で人をこき使うから。晴矢は俺の顔見るたびに文句ばっかり。口より先に手が出る奴だ。二人とも(風介は意外に)気が短いし、すぐケンカするくせにいつも一緒にいるんだよ。バカだよね、嫌なら離れたらいいのに。毎回ケンカの仲裁をするこっちの身にもなってほしいよ。

「ただいまー」
「おせーよ、バカヒロト」
「ごめんごめん。帰りに知り合いに会ってさ」
「……円堂か?」
「違うけど、なんで?」
「なんか嬉しそうだったから」
「ああ、ちょっとね。素敵なこと教えてもらって」
「なんだよニヤニヤして。きも」
「晴矢、知ってる?宇宙って中国語でユージョウって言うらしいよ」
「はあ?」
「おい、ヒロト!このアイスは私が頼んだものと違うぞ」

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