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一目惚れなんて脳みその勘違いだ。運命の出会いを感じる子もいるそうだけど、一目惚れに本物の恋なんて存在しないと思う。第一ぱっと見ただけで好きになるなんて外見が好みだっただけだろう。恋愛に外見も大事だと思うが、私は中身重視の恋愛をしたかった。
バカにされるかもしれないが、意外に恋愛に対してロマンチックだったりする。ドラマのような大恋愛に憧れたり、少女漫画のような恋愛もしてみたかった。好きな人と目が合えばはしゃいだり、会話を交わして舞い上がったり。らしくない、と笑われるだろうが。
年相応の女の子同様恋がしたい、彼氏が欲しいという願望はあったのだが、私はどこか恋する女の子達を冷ややかな目で見ていた。恋愛に対して夢を持ちつつも冒頭のように冷めた意見も持っているからだろう。他人に好意を寄せるのを下らないと思ったし、バカにしさえもした。私は一人で生きていけるんだから、なんて下らない意地を抱えながら恋愛に悩む友人の話を聞く。「もう嫌だ、好きにならなきゃよかった」と言うわりには、彼女は毎日幸せそうだし前より綺麗になった。
恋とはいったいどんなものなんだろう。


好きな人が出来た。あれだけ下らないとバカにしていた一目惚れと類似したもので、あの人について私が知っているのは、名前と顔くらい。二人きりで話したこともなければ、お互いの私生活に踏み込んだ会話をしたこともない。好きなところは?と聞かれても顔とか声とか、雰囲気みたいな視覚的情報しか挙げることが出来ない。自分でも心底愚かだと思っている。
不思議と思いを伝える気は起きなかった。というか伝えようと思わなかった。私は特別可愛いわけでもないし、女らしいわけでもないから好かれるはずがない。男はやはり女らしい子が好きなんだろう?なら私は到底無理だ。
なんて冷めたことを言ってみても好きという気持ちは簡単に覆らない。遠くにあの人を見つけて泣きたくなった。もし。私があの人を見つけたようにあの人も沢山の人の中から私を見つけてくれて、一瞬でも見ていてくれたなら。私はなんて幸せなんだろう。その考えが悲しすぎて少し泣いた。


あの人を見つけた。少し躊躇い、ない勇気を振り絞って声をかけた。あの人と目が合った。あの人の表情が少し柔らかくなって口を開きかけた。
いつもそこで目が覚める。そしてたまらなく泣きたくなるのだ。恐らく私は、この夢の続きを見ることはないだろう。なぜならあの人に名前を呼ばれたことがないのだから。
誰か私を愚かだと言って嘲笑ってくれ。

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