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「俺は秋が好きかな。涼しいから体も動かしやすいだろ。サッカーやろうぜ!」

その時、視界の端でぱっと顔を赤らめた秋先輩が見えた。きっとキャプテンの言った「秋が好き」って言葉に反応したんだと思う。後で秋先輩に聞いてみたら「バカみたいだよね。私のことじゃないのに、つい」って、恥ずかしそうに笑っていた。

「先輩はキャプテンのこと好きなんですか?」
「え?……うん。好きだよ」
「どれくらい?」
「うんと……、気持ちの大きさは表現出来ないかな」
「恋してて楽しいんですか?」
「楽しいこともあれば悲しいこともつらいこともあるよ」
「じゃあなんで恋してるんですか?」

そこまで聞いてはっと口をつぐんだ。元々の性格も影響してか、疑問に思ったことはつい根掘り葉掘り聞いてしまう元・新聞部の悪い癖だ。慌てて「すみません」と口にすれば「いいのいいの。気にしないで」と先輩は笑っていた。
なんとなくお互い気まずくなって、無言で洗い物に取りかかる。そんな中で先輩の言った一言が十年経った今でも忘れられないのだ。

「ただ、円堂くんが笑ってサッカー出来たらなって。思ってるの」

そこまで誰かを思える秋先輩をすごいと思った。そこまで誰かに思われるキャプテンを尊敬した。そんな二人は最後まで"仲間"だった。

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