story | ナノ




私にとってこの雷門中で過ごした三年間は円堂くんそのものだった。一年の時、一緒にサッカー部を始めてもう三年。短かったなんて言ったらわがままかな。
卒業式の後、帝国イレブンを交えた卒業試合が終わって、雷門イレブンは解散した。「じゃあな」「元気でね」「またな!」「高校でも頑張れよ」別れの言葉が飛び交う中で、私はどこか夢を見てるみたいだった。明日からもう皆とサッカー出来ないなんて現実味のない話だ。家まで続く道を歩きながら、そんなことをぼんやりと考えた。

「やっぱり、少し寂しいね」

ふと気づけば、私は帰路に着いた足を止めてその場に立ち止まっていた。誰へ向けて言ったわけではないけれど、返事がないことすら悲しく思える。私は学校に向かって踵を返した。なぜかは、私にもわからない。
見慣れた道を走って走って、校門を抜けて、部室のドアを開ける。

「あれ、円堂くん?」
「秋、まだいたのか」
「円堂くんこそ」

そこには眠そうに目を擦る円堂くんがいた。せわしなく肩を上下させる私を見て「どうしたんだよ、そんなに急いで」とあの日のように笑った。
三年前と変わらない円堂くんの笑顔を見た時、突然学校へと引き返した理由がわかったような気がした。

「もうすぐ、いなくなっちゃうの?」

変なことを言ったつもりはない。直感的に(いや本能的にと言った方が正しいかもしれない)目の前の人物"円堂守"という人間の終わりを悟ったのだ。説明がいると言うのなら女のカンとでも言っておく。
しばらくきょとんと私を見ていた円堂くんは、突然ふっと悲しげに目を細めて口を開いた。

「いつから気づいてたんだ?」
「今、気づいたの」
「はは、そっか」

「やっぱり秋はすげーな」と言った円堂くんに思わずいつも円堂くんのこと見てたから、と言おうとしてやめた。これじゃあ好きだと言ってるようなものだ。鈍感な円堂くんはたぶん気づかないだろうけど。
私は何も言わない。何も言わずに静かに見送るんだ。

「なあ、秋」
「ん?」
「俺達の、俺のやってきたこと、全部覚えててくれるか?」
「当たり前じゃない」
「じゃあ、俺のことは?」
「頼まれても忘れてあげません」
「そっか……よかった」

そう言ってしばらく目を閉じていた円堂くんは、「少し寝る。膝貸して」と言った。それから「秋って母ちゃんみたいだな」と、いたずらな笑顔を浮かべて眠りについた円堂くんは、何度声をかけても目を覚まさなかった。
私が覚えているから。私が守るから。あなたのこと、あなたが伝えてくれたこと、すべて。だから早く目を覚まして、また、皆で……。

「サッカー、やろうね。円堂くん」

さようなら、また会う日まで。




まばゆく輝く世界を君の手で守ったから、今はただ、翼をたたんで眠りなさい。10年後の世界で、また会いましょう。