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がたん、とそばにあった椅子が倒れた。押し倒された南雲さんは背中の痛みに少し顔を歪める。「なんの真似だ?」なんて睨みつけてくる彼の表情にゾクゾクする私はホントに変態かもしれない。

「私、南雲さんが好きなんです」
「はあ?」

この人の自信満々なところが好きだった。自分は絶対負けないとか思ってるところも、シュートする時の表情も、時々見せる他人をバカにした笑い方も視線も、全部。でも、ホントは優しいところもあったりして、知れば知るほど惹かれていくのだ。南雲晴矢という人間に。
私の予想としては、てっきり顔を赤くして慌てるものだと思ってたけど、南雲さんは真っ直ぐ私を見たまま不敵に笑った。

「じゃあさ、これ、逆じゃねえの?」
「……いいえ、これが正解。だって、」

自分でも口角が上がるのがわかった。一瞬頭をよぎった大好きな兄の姿に心の中でこっそり謝る。お兄ちゃんごめんね、私はちょっと早めに大人になります。なんちゃって。

「南雲さんのその自信、ブッ壊してやりたいの」

私は今日、人生初の下手くそなキスをした。唇を重ねて思う。あ、私この人のこと本気で好きだ。

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