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「私が好きだと言ったら迷惑でしょうか」

告白する予定なんて初めからなかった。というか、恋愛自体が初めての経験だったから何をどうしていいかもわからなくて、なんとなく、この恋は憧れのまま終わるんだろうなって思ってた。初恋は実らないって言うしね。
だからついさっき冒頭で私の口から飛び出した衝撃の言葉に深い意図はなくて、ただボールを片付ける豪炎寺先輩の後ろ姿を見て、やっぱり好きだなーなんて甘酸っぱい思いに浸っていた最中、私の意志とはまったく関係ナッシング!に飛び出して来たわけだ。言われた方の豪炎寺先輩もポカーンとしているが、言った方の私もチーンだ。さらば、私の初恋……。

「?」

「さすが無口で鈍感な豪炎寺先輩!」と、思わず口をついて飛び出しそうになった言葉を慌てて飲み込んだ。見て取れるほどのでっかい?マークを浮かべながら首を傾げた(え、何これ可愛い写真撮りたい)様子に私は内心ガッツポーズを決める。イマイチ状況を理解しきれてないですよ、この人!
伝えられずに終わる恋でもまだ密かに想っていたいと思うのが私の本音。瞬時にさっきまでテンパっていた頭をフル回転させて言い訳を探し始める。上手くごまかせればいいけど……。

「私、その、えっと。豪炎寺先輩の立てた襟好きなんです!真似してもいいですか?」

私のバカァァァァァ!言い訳が「立て襟好きです」って苦しすぎるだろ!私とお兄ちゃんは同じ両親から生まれたはずなのに、なんでこうも頭の出来が違うんだろう。お兄ちゃんならもっと自然な言い訳が見つかったのかもしれない。フラれちゃうのかな。なんて言われるんだろう。豪炎寺先輩は優しいから酷い言葉で突き放したりしないと思うけど、怖いものは怖いのだ。考えれば考えるほど気持ちが悪い方向にばかり進んで行き、とうとう顔を上げていられなくなった時だ。

「うぎゃっ……!」

目頭がじわりと熱くなるのを感じた時、首筋に冷たい手が触れて可愛さのかけらもない悲鳴が漏れた。少し視線を落とすと、豪炎寺先輩の手が私のコートの襟に伸びているのを見て、顔がカッと熱くなる。思わず呼吸を止めた。部室が薄暗いのが唯一の救いだろう。私今、絶対変な顔してる。あまりの緊張に直立したまま微動だに出来ない私の襟を立てていく豪炎寺先輩。私の頭にも?マークが浮かんだ。

「マフラーないんだろう?風邪ひくなよ」

首元から先輩の手が去ったのを確認すると、今まで浅かった呼吸を取り戻すかのように深く深呼吸をした。もう心臓がおかしくなって死んじゃうんじゃないかと思った。薄く笑った豪炎寺先輩はびっくりするくらいかっこよくて、素敵で、じわりと涙が滲む。
やっぱ好きだ。大好き。先輩、好きすぎて私どうにかなっちゃいそうです。

「豪炎寺先輩、私──……」

今度は言い訳出来ない。それでも私は膨れ上がったこの気持ちを正直にぶつけることにした。体が震える。声が震える。それでもきっと後悔はしないと思う。
うん、悪くない初恋でした!

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