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「こんなとこで何してるんだ?」
「あ、佐久間さん」

夕焼けを眺めていたら思わぬ人に声をかけられた。男の人にしては長い髪が風に遊ばれてさらさらと流れる姿に少し目を細める。「今日も相変わらず美人ですね」と言えば「男に言う言葉じゃねーよ」とムッとされた。「じゃあ、なんて形容したらいいんですか?」としつこい私に「もう美人でいいよ」と呆れたように笑う彼は、とてもいい人だと思う。お兄ちゃんはいつも私にばかり「いい友達を持ったな」って言うけど、私はお兄ちゃんにも「素敵な仲間を持ってるね」って言ってあげたい。以前帝国イレブンの方達と話す機会があったんだけど、皆さんとてもいい人だった。

「で、何見てたんだ?」
「夕焼けです。ほら、綺麗なオレンジでしょ」
「おー。明日も晴れだな!」
「……後で天気予報見てみます」
「お前何俺のこと信用してないの?」

細い人差し指を立てて「昔の人も言ってたんだぞ」なんて真剣に説く佐久間さんに思わず笑ってしまった。笑われたことにショックを受けたのか、放心した彼を見て(年下の私が言うのもおかしいけれど)反応が素直で、きっと嘘つけない人なんだと思う。

「昔、クレヨンで夕焼けの絵を描いたんです」

突然話題が変わったことに着いて行けないのか、佐久間さんは不思議そうな顔で私を見た。きょとんとした顔もさまになるなんてこれだから美人は……なんてひがんでみる。

「友達からは『変な夕焼けだね』って言われちゃいました」
「なんで?」
「オレンジ色で塗らなかったんです」

赤や青、黄色緑紫ピンク……。好きな色ばかりで塗った夕焼けはそれはそれは不気味なもので、大人もコメントに困った顔で目を逸らしていたくらいだ。

「でも、お兄ちゃんだけが『綺麗だね』って言ってくれたんです」

「春奈の好きな色で塗られた夕焼けなんだ。綺麗なのは当然だろう」なんて、今思い出すと照れ臭いセリフだけど。

「へえ。なんていうか、さすが鬼道!って感じだな」
「そうですね」

お兄ちゃんへの尊敬とか憧れとか、いろんな感情が見え隠れする佐久間さんの横顔を見ながら、ふと頭をよぎった考えに思わず笑ってしまった。
佐久間さんにもあの絵を「綺麗だ」と言ってほしいなんて。まるで彼を好きみたいだと思った。

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