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青春レシピさまへ提出


そろそろ寝ようかという時間帯に聞こえた控えめなノックに僕は眠い目をこすった。こんな時間に誰だろう。首を傾げながらドアを開けると、見慣れた恋人の姿があって驚いた。ぽかんと口を開けた僕に「眠れないんで来ちゃいました」と、彼女は笑った。

「春奈さん、夜中に一人で男の部屋に来るのはまずいよ」

「どうしてですか? 吹雪さんですよ?」

「だーめ。眠れないんなら鬼道くんのとこにでも」

「嫌です。吹雪さんがいい」

「はあ……」

困ったな。口をへの字に結んだ春奈さんはとても厄介だ。こうなるとテコでも動かない。でもこの時、あの過保護な鬼道くんに勝った気がして、ちょっとした優越感に浸る。お兄さんより僕を選んでくれたんだなーって。

「しょうがないなあ、ちょっとだけだよ」

「さっすが吹雪さんっ!」

ニカッと笑った彼女に"危機感"というものはあるんだろうか。部屋に入れてみたものの少し心配になった。でも「可愛いからいいか」なんて思ってしまう僕は結局、彼女に甘いんだ。
今夜は少し寒いから、ベッドから毛布を一枚引っ張り出して二人で潜り込む。その時ぶつかった僕の手をぎゅっと握って、春奈さんは「吹雪さんの手は、相変わらず冷たいですね」と笑った。
そして沈黙。突然喋るのをやめた春奈さんは、僕の肩に頭を預けて呟いた。

「お父さんとお母さんの夢、見ちゃって……」

「うん」

僕は、頷くことしか出来なかった。気の利いた言葉の一つも出て来ない自分を情けなく思ったけど、何を言っても気休め程度にしかならないだろう。春奈さんがそれを望むなら話は別だけど。

「内容は覚えてないんですけどね、目が覚めた時なんか、とても悲しくなっちゃって」

人間というのはホントに面倒だとつくづく思う。頭の中を整理して、割り切って、普段忘れててもふとした拍子に思い出す。そしてたまらなく悲しくなるんだ。

「僕も、あるよ」

「吹雪さんも?」

「疲れてぐっすり寝てるはずなのに夢に出てくるんだ」

「……アツヤさん?」

「うん、父さん、母さん、それとアツヤ」

「あの頃は幸せだったなあ」とか「会いたいなあ」とか、そんな気持ちにさせる、夢。「不毛でしょ」と自嘲気味に呟いた僕を見て、彼女はくしゃっと顔を歪めた。

「悲しくなりますか?」

「うん、すごく」

間髪入れずにそう返したら、やっと表情を明るくした春奈さん。ああ、やっぱり彼女には笑顔の方が似合ってる。

「春奈さんは笑ってた方が可愛いよ」

ニッコリ笑った僕とは裏腹に、彼女は一瞬目を丸くしたあと顔を真っ赤に染め上げた。

「吹雪さんも、笑った方がキレイ……です」

「……うん」

ちょっと待って。それは男としてどうなんだろう。赤い顔を隠すように僕らは互いに下を向いた。勿論、手はやんわりと繋がれたままだ。

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