「たぶん私達が付き合うことはありませんよ」
無情にも本気で好きだと告げた俺を音無は冷たく突き放した。「なんでだよ」と自分では不機嫌そうに言ったつもりだったが、実際声にすると驚くほど情けない声だった。音無はムカつくくらいニッコリ笑って「あなたとは世界が違うから」と答えた。世界って何。それがそんなに大事なのか。
「大事ですよ」
「……まだ何も言ってねえだろ」
「顔に書いてますから」
今日の音無はよく笑う。口許に手を添えて大人っぽく、まるですべてを諦めたように悲しく。
懲りずに「好きだ」と呟けば細い肩がわずかに揺れた。もう一度はっきりと「音無が好きだ」と言う。
「世界が違います」
「だからなんだよ。俺とアンタは今手を伸ばしたらお互いが届く距離にいるだろ。どこが違うって言うんだ」
「……わからないから」
「はあ……?」
「私があなたのことをなんて呼ぶのかわからないんです。南雲先輩? 晴矢さん?」
言葉につまった俺を見て、音無は笑った。「ほら、世界は何も決まってない」なんて難しいことばっか言う口は塞いでしまおう。俺がアンタを好きなことに少しの嘘もないんだから。