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「佐久間はどうするんだ? 今年のバレンタイン」

「は?」

この合宿で風丸と吹雪、そして俺の三人で集まって話をするのが恒例になっていた。話す内容は、その日の練習のこととか明日の練習について。今日もいつもみたいに風呂上がってから消灯までの間、俺の部屋で話すことになっていて、吹雪が濡れた髪をタオルで拭きながら「今日も疲れたねー」と言った。その横で「たしかに今日のメニューはきつかったな」と笑う風丸の長い髪は綺麗に上げられていて、こうして見ると本当に女みたいだ。ちなみに俺の髪の毛は濡れたまま。水滴が首筋を流れて気持ち悪いけど、タオルで拭くのも乾かすのも面倒だ。
俺も話に加わろうとした時、鞄の中に突っ込んでいた携帯がメールの受信を告げる。俺は風丸と吹雪に一言断ってからそのメールを開いた。
メールは源田からだった。

──今日もお疲れ。ちゃんと晩御飯食べたか?

来たぞ。俺はひそかに源田からのこんなメールを"オカンメール"と呼んでいる。心配してくれるのは嬉しいけどこう毎日じゃなあ……。なんて文句を垂れつつも返事をしてしまう俺は、きっと毎晩決まった時間に送られてくる源田からのメールを楽しみにしているんだろう。

──ちゃんと食べた。今日はハンバーグだったから。

──そうか。風呂上がりの髪を放置してないだろうな。

──……タオル被った。

──風邪ひかないようにしろよ。夜はしっかり布団きて寝ること。寒いからって暖房つけたまま寝るなよ。

すげ、ウチの母さんと同じこと言ってる。思わず笑いがこぼれた時に冒頭の風丸からの質問だ。さっきまで明日の練習メニューの話してたのに何がどうなってバレンタインの話になったんだよ。

「特に何も……。てか俺らもらう側なんじゃ」

「甘いよ、佐久間くん!」

「えー」

「いいかい? 仮にも男の娘の称号を冠す僕達がバレンタインデーをスルーなんて許されると思うかい? よって風丸くんは豪炎寺くんに、佐久間くんは源田くんにチョコをあげなければならない! ちなみに僕は染岡くんに手作りチョコをあげるつもりだよ」

佐久間次郎、早くもスノーエンジェルに圧され気味です。

「風丸もやるの?」

「まあ、な。手作りとかは出来ないから買ったチョコを渡そうと思ってる」

「ふーん」

風丸もやるのか。ちょっと意外かもしれない。こういうイベントに興味ないようなイメージがあったから。てかバレンタインってやるもんなの? 男同士でも? きゃっきゃっと女の子顔負けなテンションで盛り上がる二人を視界の端に捉えながら、俺は作成途中だったメールの最後に一文加えて送信ボタンを押した。

「なあ、チョコってどうやって作るんだ?」

──はいはい。母さんと同じこと言うなよな。ところで、源田は甘いもの好き?

──! ああ、大好きだ!

このメールだけ、返事が早かったんだ。

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