背中に伝わる鼓動






バギーが学校に出てこない。一日休むことはあれど、曲がりながりに学校には来るヤツなんだ。今回のことはおれのせいだなんて分かりきったこと。授業なんて耳に入らない。

バギー、やっぱり急すぎたんだよな。驚くよな。でもおれはずっと見てたんだ。隣で、お前の隣にいるのに。“ただの友達”でいたくなかった。

でも結果的にお前を傷付けただけなのか?




頭を抱えるおれに、真上からドス黒い重圧。じっとりと冷や汗が伝った気がする。顔をあげれば、担任兼数学教師のスモーカーの眼光に射抜かれる。

「いい度胸だな赤髪…。オレの授業は聞く耳持たないってか。」

口に加えているパイポがへし折れて、大層ご立腹だ。そんなスモーカーに愛憎のいい笑顔を見せて、授業に専念するフリをする。そんなおれの姿に満足したのか、スモーカーはまた教卓に戻った。

(おっそろしいの。)

こんな調子では授業に気持ちが向かない。いつも向いてるわけじゃないが。
なんとかしてバギーに会わなくては。
だが、会う資格がまだあるのか?


バギーのことが胸に渦巻きながらも何とか一日を終え、足早に教室を出る。そんなときにスモーカーに引き留められた。
渡されたのは数枚のプリント。おれも全く同じものを貰ったはずだ。

「何だよ。」
「欠席してやがるバギーの分だ。仲イイだろお前、渡してこい。」

視線をついと外すが、スモーカーは関係ないとばかりにプリントをおれの胸に突き付けると、さっさと踵を返した。重力に沿い落ちるプリントを慌てて拾い上げている間に、スモーカーの姿はなくオレは気の向かないままプリントを届けるはめとなった。


バギーはいつも家に一人だった。両親はどうしてるかなんて聞いたことなんかない。その話題に触れそうになると、決まってバギーは眼を伏せるからだ。でもそんなことはおれがバギーを愛する想いの前では塵に等しい。全て受け入れてこそ、愛していると言えると思うんだ。


不思議と玄関は開いていた。不用心なヤツ。

「バギー!いるか?」

返事はない。上の部屋にいるのか?邪魔するぜ、と小さく挨拶をしてから靴を乱雑に脱ぐ。家の中は静まり帰っていて、綺麗さが物悲しい。脇にある階段を上がっていくと、廊下にはバギーの通学かばんが放り出されていた。

三部屋ある一番奥がバギーの部屋だった。つい先週の木曜にも訪れたその部屋は、無言の抵抗をしているかのように閉まっている。息を整えノックをすると、あからさまに部屋の中からガタガタと物音がたった。

「バギー、おれだ。入るぞ?」
「ちょ…まちやがれ…」

声は枯れていて、堪らず扉を開けた。

「バギー…」
「何かようでもあんのか。」

いつも高く結われていた髪はバサバサになっていて、部屋は前来たときより荒れていた。床に座り込んでいるバギーにそっとプリントを差し出す。

「コレ、届けろって担任が。」
「…あぁ。」

奪うようにプリントを受け取ると、バギーはひらひらと手を振った。

「オラ、用は済んだろ。帰れ。」

眼を合わせないバギーの肩に手をかける。でも触れただけでビクリと震えたバギーに、やるせない気持ちが押し寄せる。

「ごめん、バギー」

慎重に言葉をつむぐ。相変わらずバギーの視線は地面にささっている。

「謝るなら…何でしたんだよ…。あんなふざけたマネ…」
「ふざけてなんか、ない。」

信じるかとばかりに掴んだ腕を押し退けようとするバギーに告げる。視線が合うよう下から見上げると、堪えるように唇を噛んでいた。視線がようやく噛み合う。

「おれは、本気で言ってるんだ。」
「…わっかんねえよ!」

真っ赤な顔をふるふると横にふる。小さな拒絶。

「いいぜ、今は。でもなバギー。」

肩に乗せていた手を頬に沿え、こちらに顔を向かせる。

「少しずつでいいから、“そういう”対象として見てくれ。」
「…〜っっっ!!!!!!」

視線に堪えきれないのかバギーは背を向ける。丸くなった背にゆっくりと手を当て、そのまま抱きしめる。意外に筋肉質のせいもあって抱き心地はいいとは言えないが、鼻孔いっぱいにバギーの匂いが広がる。早まる鼓動が伝わってしまってもいいかもしれない。

「派手馬鹿、派手アホ、スットンキョー…」

これでもかと悪口を並び立てる。でも暴れたりはしてこない。おれは悪戯がちに聞くんだ。

「じゃあおれは必要じゃないか?」
「――…クソ野郎…」

《少しだけ必要だ》

「充分だ。」

そう言ってバギーを強く抱きしめた。




(高望みは君を傷つけるって分かったから)


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