嫌い嫌い嫌い
まだ冬の名残がついて回る中、とある少年は講堂裏に呼び出されていた。呼び出したわりにその当人は未だ現れず、かれこれ一時間近い。
(そもそも何故自分がこんなに待たなくてはならないのか)
と今さらながら考えた少年は綺麗にターンし、その場を立ち去ろうと足を踏み出した。が。
「バギー!!!!」
大声で名前を呼ばれ、流石に振り返らないわけにはいかない。仏頂面を瞬時に作ると、声の主、もとい呼び出し主へと振り返える。
つもりだったのだが。
後ろを向き切る前に背中にダイビングハグを受けた。その力に押されるまま倒れ込む。
「…っんのクソ赤髪がぁ!!待たせやがったうえにタックルかますたぁどういうつもりだ!!」
「バギーに何話すか考えてたんだよ!で、さっき決まったんだ!」
仰向けの状態で罵声を浴びせてはみるものの、赤髪と呼ばれた少年は気にしてないようで。
「とりあえず退けコラ。」
「いんやこのままで話す。バギー逃げそうだし。」
確かにこの状態は在らぬ誤解を生みそうなので、バギーとしても早々立ち去りたい。しかし上からの力は思ったより強く、上半身を数センチ浮かせることしかできなかった。
「…ならさっさと話せ。」
「よし、耳かっぽじってよぉく聞けよ!」
「わーったから。」
コホンと咳をすると、真面目腐った表情を見せ、両手をぐっと押さえつけられる。この時点で背筋にゾワリと寒気が走っていたことをバギーは忘れなかった。
「バギー、好きだ。」
「………はぁ?」
まだ春と言うには遠く、冬と言うには仄かに暖かい。落ち葉が敷き詰められた自然の絨毯のうえで、小さく折り重なるようにキスをされた。
そんな三月のある日。
(嫌いのその先)
title:joy